✍ 古家あきら | 2026-09-26 更新
工務店の経営状態を調べる方法 — 決算書は都道府県の閲覧所で見られる。社名に「工務店」を持つ3万4,522法人は閉鎖率17.2%、残る会社の55%が有限会社だった(DB実測)
先に結論です。工務店の経営状態をいちばん直接に確かめられるのは、都道府県の「建設業許可申請書類の閲覧」です。 建設業の許可を持つ会社は、毎年の決算が終わってから4か月以内に、工事経歴書や直前3年の工事施工金額などを許可行政庁へ提出する決まりがあります(建設業法11条2項)。その書類は公衆の閲覧に供されます(同13条)。徳島県は「決算書等」を閲覧できると案内しており、東京都・神奈川県は1業者300円の手数料で閲覧できます。
そのうえで、次の3つを重ねると「この工務店に家を任せて大丈夫か」の見通しがかなり立ちます。
- 住宅完成保証制度の登録事業者か(登録時に経営状態の審査がある)
- 住宅瑕疵担保履行法の資力確保をしているか(保険か供託。していないと新築の請負契約を結べなくなる)
- 経審を受けているか(受けていれば点数は無料で検索できる)
しょくばログという会社データベースを運営していると、「工務店が倒産して工事が止まった」という相談の入り口で、発注者が見られる情報がとても少ないことに気づきます。うちのDBで数えると、社名に「工務店」を含む法人は全国で3万4,522件。そのうち17.2%が登記上すでに閉鎖しており、建設業のほかの会社(14.5%)や法人全体(13.2%)より高い水準でした。そして活動中の会社の55.5%は有限会社で、国の法人データベース(gBizINFO)に従業員数が載っている会社は2.0%しかありません。外から見える情報が薄いからこそ、制度の側で開示されている書類を知っておく価値があります。
工務店の経営状態を調べる4つの窓口
順番は「確かさが高い順」ではなく「手間が少ない順」に並べています。
- 住宅完成保証の登録事業者検索:経営状態の審査を通って登録されているかが分かる。無料・ウェブで数分
- 瑕疵保険法人の届出・登録事業者検索:瑕疵保険を使う事業者として届け出ているかが分かる。無料・ウェブで数分
- 経審(CIIC)の結果公表:経営状況・工事実績を点数化した結果が分かる。無料・ウェブ。ただし受けていない会社は出てこない
- 都道府県の閲覧所:決算の届出・工事経歴書・工事施工金額が見られる。窓口へ出向く必要があり、東京都・神奈川県は1業者300円
許可そのものの有無は、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で確かめられます。許可の調べ方全般は会社の許認可を調べる方法にまとめています。
いちばん確かな窓口:都道府県の閲覧所で決算の届出を見る
何が見られるのか
建設業法13条は、国土交通大臣と都道府県知事に対し、許可申請書や変更届などを「公衆の閲覧に供する閲覧所を設けなければならない」と定めています。対象には、毎事業年度のあとに出す書類(11条2項)も含まれます。11条2項が求めているのは、工事経歴書と直前3年の各事業年度における工事施工金額を記載した書面などで、これを毎事業年度経過後4か月以内に提出します。
実務では、この毎年の届出は「決算変更届」と呼ばれます。どこまで閲覧に出すかの案内は自治体ごとに書き方が違いますが、徳島県は県庁の問い合わせ窓口で、建設業者の「決算書等」を閲覧できると答えています。
見られないもの・できないこと
- 個人情報を含む書類は対象外です。 東京都は、常勤役員等の証明書、専任技術者の証明書、役員等の調書などを閲覧から除いていると案内しています。神奈川県も同様の書類を非公開にしています。
- コピー・撮影はできません。 東京都は「コピー、印刷、撮影、スキャナ等の使用、持ち出しはできません」、神奈川県は「デジカメ等を用いてファイルを写す行為は禁止」としています。メモを取って持ち帰る形になります。
- 大臣許可の会社は、都道府県では見られないことがあります。 2つ以上の都道府県に営業所がある会社は国土交通大臣の許可になり、書類は地方整備局の閲覧所で扱われます。地域の工務店の多くは知事許可なので、本店のある都道府県の窓口で足ります。
閲覧で見ておきたい3点
1. 決算変更届が毎年出ているか。 4か月以内という期限があるので、直近の年度分が綴られていなければ、それ自体がひとつの情報です。 2. 工事施工金額の3年の推移。 住宅の請負がどれくらいの規模で、増えているのか減っているのか。 3. 工事経歴書の中身。 新築住宅が中心か、リフォームや下請けが中心か。頼もうとしている工事と、その会社の普段の仕事が合っているか。
決算書の読み方の基本(自己資本がマイナスでないか、借入が売上に比べて重すぎないか)は、取引先の信用を調べる方法で扱っています。
住宅完成保証の登録:経営状態の審査を通った会社か
住宅完成保証制度は、請負契約のあと、引渡しまでの間に工務店が倒産して工事が止まったときに、発注者の追加負担を抑えるための仕組みです。住宅保証機構や住宅あんしん保証といった保証会社が提供しています。
住宅保証機構の制度では、事業者は経営状態等の審査に合格して登録された会社に限られます。対象は中小事業者が請け負う新築一戸建て(併用住宅を含む)で、発注者は個人です。保証は、倒産後に工事を引き継ぐための増嵩工事費用の20%(Aタイプ)、または増嵩工事費用20%に前払金の損害1〜20%を加えたもの(Bタイプ)。事業者ごとの限度額は1億5,000万円で、請負2,000万円・Aタイプなら限度額は400万円です。サイトには事業者検索があります。
住宅あんしん保証の制度では、登録の条件として、瑕疵保険の届出事業者であること、建設業許可を取得していること、健全な財務状態を有すると同社が認めることを挙げています。前払金は請負金額の30%か1,100万円の低いほう、増嵩工事費用は10%か200万円の高いほうが限度です。
ここで押さえておきたいのは2点です。
- 登録されている=審査を一度通ったという事実は、外から確かめられる数少ない「経営状態の第三者評価」です。
- 登録されている会社でも、契約ごとに保証を申し込まなければ保証は付きません。 検索で名前が出たことと、自分の工事に保証が付いていることは別です。契約前に、保証を付けるかどうかを工務店に確認してください。
瑕疵保険の届出:資力確保をしていない会社は新築を請け負えない
新築住宅を引き渡す建設業者は、住宅瑕疵担保履行法により、引き渡した住宅の瑕疵(欠陥)に備えて、保証金を供託するか、瑕疵保険に入るかのどちらかをしなければなりません(3条)。毎年3月31日を基準日として、過去10年に引き渡した新築住宅について状況を届け出ます。
供託と届出をしていない会社は、基準日の翌日から50日を過ぎると、新たに住宅を新築する請負契約を結んではならないと定められています(5条)。つまり、新築を頼もうとしている工務店が瑕疵保険の届出事業者として名前が出てこない場合は、供託で対応しているのか、確認する意味があります。
瑕疵保険を扱う保険法人は、それぞれ届出・登録事業者の検索を公開しています(例:住宅あんしん保証「全国の届出・登録事業者検索」)。住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル)の「事業者を選ぶ際に参考となる情報検索サイト」から各社の検索へたどれます。
瑕疵保険は完成後の欠陥に備えるもので、工事中の倒産を守るのは完成保証です。この2つは別物なので、両方を確かめてください。
経審:受けていれば点数で比べられる
公共工事を元請けで受ける会社は、経営事項審査(経審)を受けます。結果は建設業情報管理センター(CIIC)で誰でも無料で検索でき、経営状況の評点も出ます。
ただし、住宅中心の工務店は公共工事を受けないことが多く、経審を受けていない会社が普通です。しょくばログで東京都と新潟県の許可業者名簿から300社ずつ照会したときも、結果が出たのは東京14%・新潟29%でした(詳しくは経審の点数を検索する方法)。経審の結果が出てこないこと自体は、悪い兆候ではありません。 出てきたら参考にする、くらいの位置づけです。
社名に「工務店」を持つ3万4,522法人を数えてみた
ここからは、しょくばログのDB(国税庁の法人番号公表データを取り込んだもの。2026年9月時点)で、社名に「工務店」を含む法人を数えた結果です。社名で拾っているので、「工務店」と名乗らない住宅会社は入っていません。逆に、社名に「工務店」とあっても住宅以外の工事が中心の会社も含まれます。
閉鎖率は17.2%、建設業のほかの会社より高い
- 社名に「工務店」を含む法人:3万4,522件
- うち登記上閉鎖しているもの:5,937件(17.2%)
- 建設業に分類される、社名に「工務店」を含まない法人:22万6,165件のうち閉鎖3万2,880件(14.5%)
- 法人全体:579万1,529件のうち閉鎖76万2,832件(13.2%)
閉鎖した工務店5,937件の理由は、清算の結了等が3,913件(65.9%)、登記官による閉鎖が1,971件(33.2%)、合併による解散が53件(0.9%)でした。建設業のほかの会社では、それぞれ61.0%・36.7%・2.1%です。工務店は、合併でなくなる割合が小さく、自分で清算して閉じる割合が大きいという違いがあります。
登記官による閉鎖は、長く登記の動きがない休眠会社の整理で起きることが多く、年ごとの件数は整理の年に跳ねます。そのため、ここでは年ごとの推移ではなく、閉鎖している割合(断面)だけを出しています。閉鎖率は「いつ設立されたか」にも左右されるので、この差だけで工務店が倒れやすいとまでは言えません。
活動中の会社の55.5%は有限会社
活動中の工務店2万8,585件のうち、有限会社が1万5,856件(55.5%)、株式会社が1万1,987件(41.9%)でした。建設業のほかの会社では、有限会社45.7%・株式会社49.1%です。
有限会社は2006年の会社法施行以降は新しく作れないので、有限会社が多いということは、それより前から続いている会社が多いということです。長く続いていることは安心材料の一つですが、同時に、代表者の高齢化や後継ぎの問題を抱えている会社も含まれます。有限会社という形そのものの意味は有限会社に就職するのは不利かでも触れています。
公的データに規模が載っている会社は2.0%
gBizINFO(経済産業省の法人データベース)に従業員数が載っていたのは、活動中の工務店2万8,585件のうち571件(2.0%)でした。建設業のほかの会社は6.6%です。載っている571件の従業員数の中央値は14人ですが、載っている会社自体が大きめの会社に偏っていると考えられるので、工務店全体の規模とは読まないでください。
大半の工務店は、ウェブの公的データでは規模すら分からない。 だからこそ、許可を持っていれば閲覧所で決算の届出が見られる、という道が効いてきます。
建設業許可を持っているかについては、31都府県の許可業者名簿と突き合わせた結果、社名に「工務店」を含む会社の51.5%が名簿に載っていました(リフォーム会社に建設業許可がないのは普通か)。許可がない会社は、そもそも閲覧所の書類がありません。
工務店の倒産を見分ける手がかり
経営が苦しくなった工務店に出やすいサインとして、次のようなものがよく言われます。どれも「これがあれば倒産する」ものではないので、閲覧や保証登録の確認とセットで見てください。
- 着工前に高い割合の前払いを求める。 完成保証の限度額(前払金は請負の30%か1,100万円の低いほう、など)を超える前払いは、倒産したときに戻らない部分が大きくなります。
- 完成保証を付けられない・付けたがらない。 登録していても契約ごとの申込みが必要です。
- 決算変更届が直近の年度分から出ていない。 閲覧所で分かります。
- 行政処分や指名停止を受けている。 国土交通省のネガティブ情報等検索サイトで確認できます(会社の行政処分を調べる方法、指名停止を確認する方法)。
- 関係会社の倒産。 同じ代表者の別会社や、大口の元請けが倒れると連鎖することがあります(関連会社の連鎖倒産は外から見えるか)。
どうしても財務の中身まで知りたい場合は、信用調査会社のレポートを取る方法もあります。費用の目安は信用調査の費用相場にまとめています。
よくある質問
工務店の決算書は誰でも見られますか?
建設業許可を持っている工務店なら、許可を出した都道府県(大臣許可なら地方整備局)の閲覧所で、毎年の届出書類を見られます。徳島県は「決算書等」を閲覧できると案内しています。ただし個人情報を含む書類は対象外で、コピーや撮影はできません。建設業許可を持っていない工務店には、この書類自体がありません。
閲覧にお金はかかりますか?
自治体によります。東京都と神奈川県は1業者につき300円です。東京都は電子閲覧を原則無料としています。徳島県は閲覧自体は無料で、コピーが必要な場合は情報公開の手続きになります。
住宅完成保証の登録事業者なら安心ですか?
登録にあたって経営状態の審査がある点で、ひとつの目安になります。ただし審査は登録・更新の時点のものです。また、登録事業者であっても、契約ごとに保証を申し込まなければ自分の工事に保証は付きません。契約前に「この工事に完成保証を付けるか」を確認してください。
瑕疵保険の届出事業者として出てこない工務店は違法ですか?
すぐに違法とは言えません。資力確保の方法には保険のほかに供託もあるからです。ただし、新築住宅を引き渡した建設業者が供託も届出もしていない場合、基準日の翌日から50日を過ぎると新たな新築の請負契約を結べないと法律で定められています。どちらで対応しているのかを工務店に聞いてみてください。
有限会社の工務店は避けたほうがいいですか?
避ける理由にはなりません。活動中の工務店の55.5%は有限会社で、多くは2006年より前から続いている会社です。会社の形より、決算の届出が毎年出ているか、完成保証を付けられるかのほうが、経営状態を知る手がかりとしては直接的です。
まとめ
- 工務店の経営状態をいちばん直接に見られるのは、都道府県の閲覧所。建設業許可を持つ会社は毎年、決算後4か月以内に工事経歴書・工事施工金額などを届け出ており、公衆の閲覧に供される(建設業法11条2項・13条)
- ウェブで手早く確かめるなら、住宅完成保証の登録事業者検索と瑕疵保険法人の事業者検索。完成保証は工事中の倒産、瑕疵保険は完成後の欠陥に備えるもので、別物
- 経審は受けていない工務店が普通。出てきたら参考にする程度
- うちのDBでは、社名に「工務店」を含む3万4,522法人の17.2%が閉鎖済み(建設業のほかの会社は14.5%)。活動中の会社の55.5%が有限会社で、公的データに従業員数が載っているのは2.0%
- 外から見える情報が薄い業種だからこそ、制度が開示している書類を使う
出典:建設業法(e-Gov法令検索) 出典:特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(e-Gov法令検索) 出典:東京都都市整備局「許可申請書類の閲覧」 出典:神奈川県「許可申請書等の閲覧」 出典:徳島県「建設業者個別の許可申請書その他の添付書類(決算書等)を閲覧したい」 出典:住宅保証機構「住宅完成保証制度」 出典:住宅あんしん保証「住宅完成保証制度」 出典:住宅あんしん保証「全国の届出・登録事業者検索」 出典:住まいるダイヤル「事業者を選ぶ際に参考となる情報検索サイト」