✍ 古家あきら | 2026-09-16 更新

会社の労災は外から分かるか — 企業別の件数は公表されない、では何が見えるのか

先に結論です。会社ごとの労災の件数は、外からは分かりません。 労災が起きたとき会社が出す「労働者死傷病報告」は労働基準監督署に提出する書類で、公開されません。労災保険料が災害の多さで上下する「メリット制」も、結果が事業主に通知されるだけで、外に出る仕組みがありません。「労災 企業名 公表」で検索して出てくる社名のリストは、労災そのものの一覧ではなく、労働安全衛生法などの違反で送検された事案の公表です。

では何が見えるのか。3つです。①送検されて社名が公表された事案(労働基準関係法令違反に係る公表事案・直近1年で400件、うち労働安全衛生法が291件)、②企業名を消した死亡災害のデータベース(厚生労働省「職場のあんぜんサイト」・令和6年分746件、業種・事業場規模・事故の型・発生状況の文章まで載る)、③産業別・規模別の労災の起きやすさ(労働災害動向調査の度数率・強度率、令和7年分は2026年6月16日公表)。令和7年の労災は休業4日以上の死傷者が13万5,333人、死亡が700人ですが、このうち社名まで分かるのは①の数百件だけで、1%に届きません。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「求人票に労災の話が一切ないが大丈夫か」「この会社は事故が多いと聞いた、確かめられないか」という相談を受けます。正直な答えは「個社の件数は誰にも見えない」です。この記事では、①なぜ見えないのか、②見える3つの窓の使い方、③うちのデータベースで業種別の会社数と会社サイトの記載を数えて分かったこと、④それでも応募前・取引前に確認できることを、順に書きます。

なぜ会社別の労災件数は公表されないのか

労災が起きたとき、会社には報告の義務があります。労働安全衛生法第100条と労働安全衛生規則第97条で、労働者が死亡または休業したとき「労働者死傷病報告」を所轄の労働基準監督署長に提出することになっています。休業4日以上は遅滞なく、4日未満は四半期ごとにまとめて出します。この報告を出さない、または嘘を書くのが「労災かくし」で、同法第120条の罰則(50万円以下の罰金)の対象です。

大事なのはここからで、この報告は監督署の中で使われる書類で、会社別に集計して公開する制度がありません。 厚生労働省が毎年出す「労働災害発生状況」は、この報告を全国で集計した統計で、業種・事故の型・年齢などの切り口はありますが社名は出ません。

もう1つ、労災保険には「メリット制」があります。労働保険の保険料の徴収等に関する法律第12条の3で、一定規模以上の事業場は過去3年の災害の多さに応じて労災保険率が上下します。「労災が多い会社は保険料が高い」ので、これが見えれば個社の判断材料になるのですが、適用の結果は事業主に通知されるだけで、外部が照会できる仕組みはありません。 会社が自分から開示しない限り、取引先にも求職者にも見えない数字です。

つまり、労災の件数を会社別に持っているのは監督署と労働局と会社自身だけで、その3者のどこにも「公開する」ルールが無い、というのが構造です。

窓①:送検されて社名が出た事案 — 年400件、労働安全衛生法が72.8%

社名が出る唯一の公的ルートが、厚生労働省と47の都道府県労働局が出している「労働基準関係法令違反に係る公表事案」です。労働基準監督署が書類送検した事案のうち、公表基準に該当したものが、企業名・所在地・違反法条・事案の概要つきで1年間掲載されます。この使い方は 労働基準法違反で社名を公表された会社の調べ方 で全400件を数えて書きました。

労災との関係でいうと、あのリストは「ブラック企業リスト」と呼ばれがちですが、中身の72.8%(291件)は労働安全衛生法違反、つまり機械の安全措置や墜落防止をしていなかったといった、労災の発生を受けた送検です。長時間労働の労働基準法32条・36条は28件しかありません。労災の話をするなら、このリストこそ「社名が出る労災」の一覧に近いのです。

ただし桁を押さえておく必要があります。令和7年の休業4日以上の死傷者は13万5,333人です。公表事案の労働安全衛生法違反291件(令和7年8月〜令和8年7月公表分)をそれに当てると、0.2%(291÷135,333)です。年の区切りが揃っていないので目安ですが、労災が起きた会社の500社に1社しか社名は出ない、という桁感になります。「リストに載っていない=労災が無い会社」とはまったく言えません。

窓②:企業名のない死亡災害データベース — 令和6年746件を全部数えた

厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に、死亡災害データベースがあります。平成3年から令和6年までに起きた死亡災害の個別事例の全数が、年ごとのExcelファイルで置かれています。列は、発生月・発生時間・災害状況(文章)・業種(大分類〜小分類)・事業場規模・起因物(大分類〜小分類)・事故の型。企業名も所在地もありません。 だから個社の特定には使えませんが、「どういう会社で人が死んでいるか」は、これで数えられます。

令和6年分(746件)をダウンロードして数えました。

事業場の規模で見ると、小さい事業場に集中しています。

1〜29人の事業場で66.9%、3件に2件です。 100人以上の事業場は1割強しかありません。この数字は、次の窓③で出てくる「労働災害動向調査」が事業所規模100人以上だけを対象にしていることと合わせて読む必要があります。度数率という統計が見ているのは、死亡災害の1割強しか起きていない大きな事業場の世界です。

業種で見ると、建設・製造・運輸で3分の2です。

このデータベースの業種は労災保険の業種区分なので、日本標準産業分類とは名前が少し違います(「運輸交通業」「清掃・と畜業」など)。

事故の型は、墜落・転落、交通事故、はさまれ・巻き込まれの順です。

「災害状況」の列には、たとえば「事業場内の高さ2.2mの斜面上において、クレーン仕様ではないドラグショベルの…」のように、何をしていて何が起きたかが文章で入っています。求人票にある職種名(重機オペレーター、屋根工事、荷役など)で絞って読むと、「その仕事で実際に人が亡くなっている状況」が具体的に分かります。企業名は出ませんが、応募先の業種・規模がこの分布のどこにいるかは分かります。

なお、休業4日以上の「死傷災害データベース」もありますが、こちらは平成18年〜令和3年分で、各年およそ4分の1の無作為抽出です。全数ではないので件数の比較には使わないでください。

窓③:産業別の起きやすさ — 労働災害動向調査の度数率・強度率

「この業種はどれくらい労災が起きるのか」を率で見る統計が、厚生労働省の労働災害動向調査です。令和7年分が2026年6月16日に公表されました。指標は2つで、度数率は100万延べ実労働時間あたりの死傷者数(起きる頻度)、強度率は1,000延べ実労働時間あたりの労働損失日数(重さ)です。

令和7年の主な数字です(事業所規模100人以上)。

事業所の規模でも差が大きく、1,000人以上は度数率0.63、100〜299人は2.69です。 概況にも「事業所規模が小さくなるほど高くなっている」と書かれています。また調査産業計で、1年間に労災が1件も無かった「無災害事業所」の割合は55.9%でした。

ここで注意が2つあります。1つ目は、上の建設業の度数率0.69が「総合工事業を除く」設備工事などの事業所の値で、工事現場そのものは別枠の総合工事業調査(度数率1.89・強度率0.29)だということです。建設が「低い」わけではありません。2つ目は、繰り返しになりますがこの調査は常用労働者100人以上の事業所(有効回答9,514事業所)が対象で、死亡災害の66.9%が起きている30人未満の事業場は入っていないことです。度数率は「大きな事業所での、業種ごとの相対的な起きやすさ」として読むのが正しい使い方です。

年の死傷者数で見ると、令和7年(2026年5月27日公表の確定値)は死亡700人で過去最少、休業4日以上の死傷者は13万5,333人。業種別の死亡者数は建設業214人、製造業115人、陸上貨物運送事業80人、商業61人。死傷者数は製造業2万6,371人、商業2万3,128人、保健衛生業1万9,291人、陸上貨物運送事業1万5,632人です。事故の型では死傷者の最多が「転倒」で3万7,195人、死亡の最多が「墜落・転落」186人です。

しょくばログの数字①:事故が起きやすい業種に、会社は何社あるか

ここからは、うちのデータベースの側から見ます。国税庁の法人番号を土台にした全国の会社データで、活動中かつ検索対象の法人4,988,967社のうち、業種(日本標準産業分類の大分類)が付いているのは1,736,189社です。業種の付け方は 会社の業種を調べる方法 に書いたとおりで、gBizINFOの登録と会社名の語からの推定を組み合わせています。

業種が分かる会社の内訳です。

死亡災害データベースで上位だった建設・製造・運輸の3業種で、業種が分かる会社の38.8%(674,049社)を占めます。会社の数で見れば、日本の会社の4割近くが「死亡災害の3分の2が起きている業種」にいる、ということです。しかも 従業員数の調べ方 で書いたとおり、日本の会社の大多数は従業員10人未満で、死亡災害の35.8%が起きている「1〜9人の事業場」の側にいます。

なお建設業の社数には、会社名の「組」を手がかりに建設業と推定した協同組合・管理組合が一部混ざっていることが分かっており(全国で約4.9万社)、建設業の社数はその分だけ多めに出ています。修正は進めていますが、この記事の時点では未反映です。

しょくばログの数字②:会社サイトで安全衛生の取り組みを書いている会社は5.3%

もう1つ、会社が自分で何を書いているかを数えました。うちが保存している会社サイトのテキスト(採用ページを中心に、本文が入っている31,942社)を、安全衛生に関わる語で検索しました。

何かしらの語がある会社は8,729社(27.3%)でしたが、中身を見ると「労災の記録」ではなく「労災保険」の話がほとんどです。

「労災」の22.1%は、求人の福利厚生欄の「社会保険完備(健康・厚生年金・雇用・労災)」の書き方で出てくるものが大半です。労災保険は労働者を1人でも雇えば強制加入なので、書いてあっても会社の安全への取り組みを示しません(福利厚生の調べ方 で書いた「法定と法定外の区別」と同じ話です)。会社としての安全衛生の取り組みを何か1つでも書いている会社は5.3%、記録として意味のある「無災害」まで書くのは0.5%(159社)です。

業種別に「何かしらの語がある」割合を見ると、差がはっきり出ます。

建設業は「安全衛生」10.6%、「安全大会」4.0%、「ISO 45001」1.6%、「無災害」1.5%と、他業種より一桁多く書いています。安全大会を書いている241社のうち141社が建設業で、ほぼ建設業の文化です。運輸業は「ヒヤリハット」1.6%が最も高く、製造業は「安全衛生」7.4%。医療・福祉は「労災」の語は22.2%ある一方で「安全衛生」は0.9%と、書き方が福利厚生に寄っています。

会社の規模別(gBizINFOの従業員数で分けた)では、1〜9人が13.0%、10〜29人が24.6%、30〜49人が29.0%、50〜99人が30.6%、100〜299人が28.5%、300人以上が30.8%でした。30人を超えると3割前後で頭打ちになり、10人未満だけがはっきり低い。死亡災害の35.8%が起きている1〜9人の事業場が、いちばん安全のことを書いていない層です。

書いていないから危ない、とは言えません。取り組みをしていてもサイトに載せない会社のほうが多いはずです。ただ、建設業で安全大会も安全衛生の語も無い、製造業で安全衛生の語が無い、というときは「同業の平均より書いていない」とは言えます。 面接で聞く材料にはなります。

それでも応募前・取引前に確認できること

会社別の件数が見えない前提で、外から手が届くのはこの5つです。

面接で労災の件数を直接聞くのは気が引ける、という声もよく聞きます。「安全衛生委員会はありますか」(衛生委員会は常時50人以上の事業場に労働安全衛生法第18条で設置義務があり、安全委員会は業種によって50人または100人以上で義務になります)、「ヒヤリハットや安全パトロールはどんな頻度で」という聞き方なら、会社側も答えやすく、答えられない会社は答えられません。

よくある質問

労災の件数が多い会社の一覧はありますか

ありません。労働者死傷病報告は労働基準監督署に出す書類で会社別に公開されず、労災保険のメリット制の適用結果も外部に出ません。社名が出るのは、労働基準関係法令違反で送検され公表基準に該当した事案だけで、直近1年で400件(うち労働安全衛生法違反291件)です。令和7年の休業4日以上の死傷者13万5,333人に対して、社名が分かる労災は桁で見て0.2%程度です。

求人票に「労災保険完備」と書いてあれば安全な会社ですか

関係ありません。労災保険は労働者を1人でも雇う事業に強制適用される保険で、書いてあるのは法定の当たり前を書いているだけです。うちのデータでは会社サイトに「労災」の語がある会社は22.1%ですが、その大半がこの福利厚生表記でした。安全への取り組みを見るなら「安全衛生」「安全大会」「無災害」「ヒヤリハット」「ISO 45001」といった語の有無のほうが手がかりになります。

労働災害動向調査の度数率で、自分の応募先の危険度は分かりますか

業種と事業所規模の目安までです。度数率は常用労働者100人以上の事業所を対象にした統計で、会社別の値ではありません。令和7年は全産業2.01、運輸業・郵便業3.65、製造業1.33、情報通信業0.56など業種で10倍以上の差があり(農業・林業8.10に対し情報通信業0.56)、規模でも1,000人以上0.63・100〜299人2.69と開きます。一方、令和6年の死亡災害746件のうち66.9%は30人未満の事業場で起きていて、度数率の対象外です。小さい会社ほど、統計では見えない領域だと思ってください。

死亡災害データベースで会社名を検索できますか

できません。職場のあんぜんサイトの死亡災害データベースは、発生月・発生時間・災害状況の文章・業種・事業場規模・起因物・事故の型を載せていますが、企業名と所在地の列がありません。個社の特定ではなく、「この業種・この作業でどんな事故が起きているか」を読むためのデータです。休業4日以上の死傷災害データベースは各年の約4分の1を抽出したもので、全数ではありません。

労災が起きたことを会社が隠していたら、外から分かりますか

原則として分かりません。労働者死傷病報告を出さない・虚偽を書く「労災かくし」は労働安全衛生法第120条の罰則の対象で、発覚すれば送検・公表事案に載ることがありますが、それは事後です。被災した本人や家族が労働基準監督署に相談すれば調査は動きます。応募や取引の前に外から確かめる手段としては、公表事案リストと、会社サイト・求人票の安全衛生の記述、面接での質問に限られます。

まとめ

出典

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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