✍ 古家あきら | 2026-09-25 更新
助成金の不正受給で公表された企業名を調べる方法 — 一覧は労働局ごと。大阪・愛知の公表691行を数えたら、94%はコロナ期の雇用調整助成金だった
先に結論です。助成金の不正受給で公表された企業名は、その会社の所在地を管轄する「都道府県労働局」のホームページで調べます。 厚生労働省に全国をまとめた事業主の一覧はなく、厚労省のページは47の労働局へのリンク集になっています。
そして、調べる前に知っておいてほしいことが2つあります。
- 一覧に載っていないことは「不正がなかった」証明になりません。 不正の額が100万円未満の事案や、自主申告して1か月以内に全額返した事案は、原則として公表されない決まりです
- 一覧に載っている会社の9割超は、登記上いまも存続しています。 大阪・愛知の公表一覧を国税庁の法人データと突き合わせたところ、1対1で照合できた256法人のうち、登記が閉鎖されていたのは19法人(7.4%)でした
しょくばログという会社データベースを運営していると、「取引先がコロナの助成金で不正をしていないか確認したい」「応募先の社名で検索したら不正受給の記事が出てきた」という相談を受けます。この記事では、公表の仕組みを厚労省の一次資料で確かめたうえで、実際の公表一覧を数えた結果を載せます。
公表されている場所:厚労省ではなく、都道府県労働局のページ
雇用関係助成金(雇用調整助成金、キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金など、雇用保険を財源にした助成金の総称)の不正受給は、申請先の都道府県労働局が不支給や支給取消を決め、その労働局が自分のホームページで公表します。
厚生労働省の「雇用調整助成金(不正受給関係)」のページには、「事業主名等の公表は管轄都道府県労働局のホームページにおいて行っています」とあり、北海道局から沖縄局まで47局へのリンクが並んでいます。つまり、社名を入れて全国を一度に検索できる窓口は用意されていません。
調べる手順は次のとおりです。
1. 調べたい会社の本店・事業所の所在地(都道府県)を確認する 2. 「〇〇労働局 助成金 不正受給 公表」で検索するか、上の厚労省ページのリンクからその局のページへ行く 3. 年度ごとのPDF(大阪・愛知は年度別のPDF)を開き、ブラウザの検索(Ctrl+F)で社名を探す 4. 見つかったら、名称・所在地を法人番号の公表サイトで照合し、同じ名前の別会社でないかを確かめる
4つ目が意外と大事です。公表一覧には法人番号が載っていません。載っているのは名称と所在地なので、同じ市内に同じ社名の会社があれば取り違えが起きます。今回の突き合わせでも、同じ市区町村に同じ名前の法人が2つ以上あって、どちらか決められない行が10行ありました。
もう1つの注意点は、労働局の所在地で探すことです。不正受給が起きた事業所を管轄する局が公表するので、本社が東京でも、事業所が愛知にあれば愛知労働局の一覧に載ります。
公表の基準:「100万円以上」かつ「1か月以内に返していない」が原則
どの不正受給が公表されるかは、厚生労働省の「雇用関係助成金支給要領 共通要領」(令和8年4月8日現在)の「0705 不正受給事案の公表」に書かれています。要点を条文の順に並べます。
- 公表される場合①:1つの事業主の不正額(支給取消額と、不正を理由に不支給とした申請額の合計)が100万円以上で、返還を命じた日から1か月以内に全額が納付されないとき
- 公表される場合②:不正の態様・手段・組織性などから、労働局長が特に重大または悪質と認めたとき(こちらは金額を問わない)
- 公表される場合③:社会保険労務士、代理人、訓練を行う者が不正に関与したとき
- 公表しないことができる場合:社労士や代理人が不正に関与していても、事業主自身が関与していないことが明らかなときは、事業主は公表しないことができる
雇用調整助成金については、厚労省のページに「自主申告ではない不正受給事案については、例外なく事業主名等を公表します」(100万円未満を除く)とはっきり書かれています。逆に、労働局の調査の前に自主申告し、返還命令から1か月以内に全額を返し、特に重大・悪質でないと認められれば、公表しないことができます。
ここから言えるのは、公表一覧は「不正受給をした会社の全リスト」ではなく、「一定額以上の不正で、すぐには返し切れなかったか、悪質と判断された事業主のリスト」だということです。厚労省によると、雇用調整助成金だけで支給決定取消は4,640件、取消額は約1,153億円(令和8年3月末実績)にのぼりますが、このうちどれだけが公表対象になったかは同じページには載っていません。
公表される項目と、掲載される期間
共通要領0705ロで、事業主が不正受給をした場合に公表される項目は次の4つと決まっています。
- 事業主の名称、代表者と(不正に関与した)役員の氏名、事業概要
- 不正受給があった事業所の名称と所在地
- 助成金の名称、不支給決定日または支給取消日、返還を命じた額、返還状況
- 不正の行為の内容
掲載期間は、不支給決定・支給取消の日から5年が経つまでです(0705ハ)。5年を過ぎても全額が納付されていなければ、納付が確認されるまで掲載が続きます。一方、「100万円以上・1か月以内に未納」を理由に公表された事業主が、あとで全額を納めた場合は、名称や所在地などを取り消すことができる、という定めもあります。
このため、「昔は載っていたのに今は見当たらない」ことが制度上起こります。全額返したか、掲載期間が過ぎたかのどちらかです。数年前の不正受給を調べたいときは、労働局の一覧よりも、公表時の労働局の報道発表や新聞記事のほうが残っていることがあります。
ちなみに労働局のページに並んでいる年度の数も局によって違います。今回見た範囲では、大阪労働局は令和3〜8年度の6年度分、愛知労働局は令和4〜8年度の5年度分のPDFを掲載していました(2026年9月25日確認)。
大阪・愛知の公表一覧691行を数えてみた
制度の説明だけではイメージが湧きにくいので、実際の一覧を数えました。使ったのは大阪労働局(令和3〜8年度)と愛知労働局(令和4〜8年度)が公表している「不正受給を行った事業主等」のPDFです(2026年9月25日取得)。
一覧は「1つの助成金につき1行」なので、雇用調整助成金と緊急雇用安定助成金の両方で不正をした事業主は2行になります。行数と、社名で重複を除いた事業主の数は次のとおりです。
- 大阪労働局:300行、事業主211
- 愛知労働局:391行、事業主312
- 合計:691行、事業主523
94%がコロナ期の雇用調整助成金と緊急雇用安定助成金
助成金の名称で分けると、雇用調整助成金と緊急雇用安定助成金で691行中650行(94.1%)でした。大阪は300行中267行(89.0%)、愛知は391行中383行(98.0%)です。
どちらもコロナ禍で休業手当を補うために大きく使われた助成金で、不正の内容も「休業していないのに休業したとする虚偽の書類を作った」という記載が目立ちました。残りはキャリアアップ助成金(大阪19行・愛知1行)、人材開発支援助成金(大阪8行・愛知6行)などです。つまり、いま労働局の一覧で見つかる事業主の大半は、2020年以降のコロナ特例の後始末の中で公表されたものと読めます。
全額を返し終えているのは2割未満
返還状況の欄を数えると、次のようになりました。
- 一部返還済み:331行(47.9%)
- 納付計画策定中:208行(30.1%)
- 全額返還済み:127行(18.4%)
- 未返還:13行(1.9%)
- 読み取れなかった行:12行
公表の基準が「1か月以内に全額納付されないとき」なので、公表時点で返し終わっていない事業主が多いのは当然とも言えます。取引先を確認する立場で見るなら、「納付計画策定中」「一部返還済み」は、会社がまだ国に対して返還金を負っている状態だという点が大事です。与信を考えるときの材料の1つになります(考え方は取引先の信用を調べる方法で整理しています)。
自主申告でも公表されている
不正の内容の欄に「(自主申告)」と書かれた行は、691行中167行(24.2%)ありました。大阪は300行中106行(35.3%)、愛知は391行中61行(15.6%)で、局によって書き方か実態に差がありそうです。
自主申告しても、1か月以内に全額を返せなかった場合などは公表の対象になります。「自主申告すれば名前は出ない」と思い込むのは誤りで、名前が出ないのは自主申告に加えて速やかに全額を返した場合です。
3割は個人事業主などの「会社ではない事業主」
事業主523のうち、名称に株式会社・有限会社などの法人格が入っていたのは365(株式会社319、有限会社31、合同会社13、合資会社1、NPO法人1)で、全体の69.8%でした。残りの158(30.2%)は、屋号と個人名で載っている個人事業主や協同組合などです。飲食店の屋号がそのまま載っている例が目立ちました。
個人事業主には法人番号がないので、屋号だけで検索すると見落とします。飲食店やサロンなど個人経営の店を調べるときは、屋号と経営者の氏名の両方で一覧を探してください。
国税庁の法人データと突き合わせた結果:公表後も9割超が存続
最後に、しょくばログの元データである国税庁の法人番号データ(約579万件)と突き合わせました。法人格が入っていた365事業主のうち、社名と所在地の市区町村で1つの法人に決まったのは256法人です(同名の法人が複数ある行や、所在地が一致しない行は除外しています)。
- 登記上いまも存続:237法人(92.6%)
- 登記が閉鎖:19法人(7.4%)。閉鎖の理由は清算の結了等が17、合併による解散等が2
- 閉鎖の年は、2024年が10法人、2025年が4法人、2026年が5法人
「不正受給で公表された会社は、もう潰れている」というイメージを持たれがちですが、少なくとも大阪と愛知の一覧では、9割超の法人が登記上は存続しています。返還金を分割で払いながら事業を続けている会社が多い、ということです。
同じく公的な資金の取消から倒産に至った例としては、無料PCR検査の補助金の交付決定を取り消されて破産したメディトランセのケースがあります。こちらは雇用関係助成金ではなく自治体の補助金で、公表の仕組みも別物です。
ほかの「行政の公表リスト」との違い
不正受給の公表一覧は、行政が企業名を出す仕組みの1つです。似た仕組みと並べると、調べる場所の違いがわかります。
- 助成金の採択・交付を受けた企業:もらった側の公表。ものづくり補助金などは事務局サイトに採択者一覧がある(補助金の採択企業を調べる方法)
- 労働基準関係法令違反で送検された企業:厚労省が1か所にまとめて公表している(労基法違反の公表企業の調べ方)
- 業法にもとづく行政処分:業種ごとに国交省・金融庁・都道府県などが公表(会社の行政処分の調べ方)
- 助成金の不正受給:47の都道府県労働局に分散。社労士・代理人・訓練機関は厚労省のページからも確認できる
労基法違反の送検企業は厚労省が一覧にまとめているのに、助成金の不正受給は労働局ごと、という違いは覚えておくと検索の手間が減ります。取引先の確認を一通りやるなら、反社チェックの方法とあわせて見るのがおすすめです。
よくある質問
助成金の不正受給をした企業を全国まとめて検索できるサイトはありますか?
事業主についてはありません。厚生労働省の雇用調整助成金のページは47の都道府県労働局へのリンク集になっていて、一覧そのものは各局のページに載っています。調べたい会社の事業所がある都道府県の労働局のページを開き、年度ごとのPDFを社名で検索してください。不正に関与した社会保険労務士・代理人・訓練機関については、厚労省のページからも確認できます。
一覧に名前がなければ、その会社は不正受給をしていないと考えてよいですか?
いいえ。共通要領の基準では、不正の額が100万円未満の事案は原則として公表されず、100万円以上でも自主申告して1か月以内に全額を返し、重大・悪質でないと認められれば公表しないことができます。さらに掲載期間は原則5年で、全額納付後に名称を取り消せる定めもあるため、過去に公表されていても今は載っていないことがあります。
公表された会社はどのくらいの期間載っていますか?
不支給決定または支給取消の日から5年が経つまでです。5年を過ぎても返還金が全額納付されていなければ、納付が確認されるまで掲載が続きます。
不正受給をすると、会社はどんな不利益を受けますか?
共通要領では、受け取った助成金の返還に加えて、不正受給の日の翌日から年3%(支給申請が2020年3月31日以前なら年5%)の延滞金と、返還額の2割に相当する額(違約金に当たるもの)を請求されます。さらに不支給措置として、不支給・支給取消の日から5年間は雇用関係助成金を受けられません。不正に関与した役員が別の会社の役員になっている場合は、その別の会社も同じ期間、助成金を受けられなくなります。
求人に応募しようとしている会社が一覧に載っていたら、応募はやめるべきですか?
一覧に載っていること自体は、不正な申請をして公表基準に当たったという事実です。ただ、大阪・愛知の一覧を国税庁データと照合すると、9割超の法人は登記上いまも事業を続けており、返還を進めている会社もあります。公表日と返還状況の欄を確認し、面接などで管理体制がどう変わったかを聞いてから判断する、というのが現実的です。
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この記事のデータについて:大阪労働局・愛知労働局が公表している「不正受給を行った事業主等」のPDF(大阪=令和3〜8年度、愛知=令和4〜8年度、2026年9月25日取得)をテキスト化して数えました。事業主の数は、同じ事業主が複数の助成金で載っている行を社名で重複除去した数です。法人データとの照合は、社名(空白を除去)と所在地の市区町村が国税庁 法人番号公表サイトのデータと一致し、かつ同じ市区町村に同名の法人が1つしかないものに限っています。公表の基準・項目・期間は厚生労働省「雇用関係助成金支給要領 共通要領」(令和8年4月8日現在)の0701・0702・0705、雇用調整助成金の取消件数・金額は厚生労働省「雇用調整助成金(不正受給関係)」(令和8年3月末実績)によります。