✍ 古家あきら | 2026-09-21 更新
翻訳業100社の利益が3年で7割減、AIとの競合で破産も — 社名に「翻訳」を持つ271法人は閉鎖率19.2%、活動中219社の47%が東京都、gBizINFOに従業員数があるのは3社だけという登記データ
先に結論です。東京商工リサーチ(TSR)が2026年9月21日に公表した「翻訳業が苦境、利益は3年で7割減」によると、5期連続で業績を比較できる翻訳業100社の2025年度(4-3月)の売上高合計は392億5,700万円、最終利益は9億200万円でした。ピークだった2022年度(売上高434億7,800万円・利益30億8,200万円)と比べて、売上は9.7%減、利益は70.7%減。2023年度から3期連続の減収減益です。2025年度は100社のうち減収が50社・減益が47社と半数近くが落ち込み、2026年1-8月の翻訳業の倒産は3件(前年同期1件)、2025年の休廃業・解散は50件(前年53件)で高止まりしています。TSRは、2026年に破産した首都圏の翻訳サービス会社について「AI翻訳の台頭がとどめを刺した」という関係者の話を紹介しています。
出典:翻訳業が苦境、利益は3年で7割減 ~ AIと競合で破産したケースも ~(東京商工リサーチ TSRデータインサイト・2026年9月21日)
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「AIに仕事を取られる業界」の話は、ニュースの見出しよりずっと地味な形で登記に現れます。倒産が急増するのではなく、もともと小さい会社が静かに清算されたり、登記だけ残って放置されたりする。今回はTSRの100社の数字を一次資料として押さえたうえで、うちの台帳(国税庁法人番号公表サイト由来・約579万法人)で社名に「翻訳」を含む法人を数え、業界の「上澄み100社」と「登記に載る271法人」がどれくらい違う世界かを書きます。
TSRの100社が示していること — 売上1割減で利益7割減という構造
TSRの分析対象は「5期連続で業績比較が可能な翻訳業100社」です。つまり決算数字を継続して把握できる、業界の中では規模の大きい層だと考えてよいでしょう。その100社の推移を、TSRの記事から拾うとこうなります。
- 2022年度(ピーク):売上高434億7,800万円・最終利益30億8,200万円
- 2025年度:売上高392億5,700万円・最終利益9億200万円
- 3年間の変化:売上高9.7%減、最終利益70.7%減
- 2025年度の内訳:減収50社・横ばい18社・増収32社/減益47社・横ばい18社・増益35社
売上が1割落ちただけで利益が7割消える、というのが数字の要点です。翻訳会社の原価の大半は翻訳者への支払いと社内の人件費なので、単価が下がっても仕事の量が急には減らず、固定費だけが残る。TSRは「簡易的な文章は無料翻訳も可能になった」「翻訳の敷居が低くなり、価格競争は激化している」と書いていて、値下げ圧力が利益を直撃した構図が読み取れます。
倒産と休廃業の数字も別に出ています。翻訳業の倒産は年5件未満が続き、2020年に6件、コロナ関連支援があった2021・2022年はゼロ、そして2026年は8月までに3件。休廃業・解散は2019年に初めて30件台(33件)に乗り、2024年53件・2025年50件。倒産という派手な形ではなく、休廃業・解散という静かな形で退場する会社が年50件前後いる、というのがこの業界の実態です。
うちの台帳で数える — 社名に「翻訳」を持つ法人は271件
ここからは、しょくばログの会社データベースで数えた数字です。対象は、国税庁の法人番号公表サイトに登録されている全法人のうち、商号(社名)に「翻訳」の文字を含む法人。2026年9月21日時点で271件ありました。
- 全体:271法人(うち閉鎖52件・閉鎖率19.2%)
- 全法人の閉鎖率:13.2%(762,832件/5,791,529件)。翻訳を名乗る法人の閉鎖率はその約1.5倍
- 閉鎖の事由:清算の結了等41件(78.8%)、登記官による閉鎖9件(17.3%)、合併による解散等2件
先に断っておくと、271件はTSRの「翻訳業」全体ではありません。翻訳業の大手には、サイマル・インターナショナル、十印、川村インターナショナルのように社名に「翻訳」が入らない会社が多く、これらは今回の271件に含まれません。逆に、一般社団法人日本翻訳連盟や特定非営利活動法人日本翻訳者協会のような業界団体は「翻訳」を含むので入っています。社名で拾えるのは業界の一部で、しかも小規模な会社と団体に寄った断面だと思って読んでください。
活動中の219法人の内訳は次の通りです。
- 法人種別:株式会社101社(46.1%)、有限会社64社(29.2%)、合同会社31社(14.2%)、一般社団法人・NPO法人などその他18件(8.2%)、外国会社3件
- 全国の活動中の会社の種別:株式会社56.4%、有限会社32.0%、合同会社9.2%。翻訳を名乗る法人は株式会社が10ポイント少なく、合同会社が5ポイント多い
- 都道府県:東京都102社(46.6%)、神奈川県25社、大阪府25社、埼玉県8社、千葉県8社、福岡県7社。上位3都府県で69.4%
- 全国の活動中の会社に占める東京都の割合:24.4%。翻訳を名乗る法人は東京集中がその約2倍
- 東京都内の区:新宿区16社、港区12社、千代田区10社、中央区9社、渋谷区8社。この5区で東京都内の53.9%
- 社名に「事務所」を含む:49社(22.4%)。「サービス」20社、「センター」18社、「協会」16件
「〇〇翻訳事務所」が2割強を占めるのが、この業界の登記の特徴です。翻訳者が一人か数人で法人化した形で、有限会社が3割近く残っているのも、2006年の会社法施行前に設立された小さな会社がそのまま続いていることを示します。
従業員数が分かるのは3社 — 規模の情報がほぼ存在しない業界
うちの台帳は経済産業省のgBizINFOと突き合わせていて、従業員数や資本金が公表されている会社はそれを載せています。社名に「翻訳」を含む271法人のうち、gBizINFOに従業員数の記載があるのは3社だけでした。
- 株式会社翻訳センター(大阪市中央区・1986年設立):521人
- 日本財務翻訳株式会社:113人
- 日本映像翻訳アカデミー株式会社(2003年設立):40人
翻訳センターは上場会社で、TSRの100社にも当然入っているはずの規模です。残りの268法人は従業員数が公的なデータに出てきません。求人票や取引で翻訳会社を見るとき、「規模が分からない」のは調べ方の問題ではなく、そもそも公表されていないからです。会社の規模を外から確かめる方法は会社の売上高を無料で調べる方法にまとめていますが、翻訳業の大半はそのどの経路にも載らない、と考えたほうが現実的です。
ほかに分かることとして、活動中219法人のうち適格請求書(インボイス)発行事業者に登録しているのは103社(47.0%)でした。全法人での登録率は51.2%なので、ほぼ平均並みです。翻訳会社の顧客は企業が中心なので登録率はもっと高くてもよさそうですが、個人翻訳者の法人や休眠に近い法人が混ざっていると考えれば説明はつきます。
閉鎖の年次を見るときの注意 — 2026年の4件のうち3件は「登記官による閉鎖」
社名に「翻訳」を含む法人の閉鎖を年ごとに並べると、2016年7件、2017年7件、2018年6件、2019年5件、2020年6件、2021年5件、2022年3件、2023年4件、2024年4件、2025年1件、2026年(9月まで)4件です。うちの台帳は法人番号制度が始まった2015年10月以降の閉鎖しか持っていないので、それ以前は数えられません。
ここで「2026年に急に増えた」と読むのは早計です。2026年の4件の内訳は、清算の結了等が1件(2月)、登記官による閉鎖が3件(いずれも1月)でした。登記官による閉鎖は、12年以上登記のない株式会社などを法務局が「みなし解散」として整理する手続きで、実際に事業をやめた時期とは関係なく、年に一度まとめて起こります。仕組みは会社の解散・休眠を調べる方法に書きました。つまり2026年1月の3件は「AIに負けて畳んだ」のではなく、「ずっと前に動かなくなっていた登記が今年片づけられた」可能性のほうが高い。
TSRが数える「休廃業・解散50件」と、うちの「清算の結了等が年3〜7件」が桁違いなのも、同じ理由です。休廃業は「事業をやめた」状態で、登記の閉鎖ではありません。会社をやめても清算登記をしなければ、法人番号公表サイトでは何年も「活動中」のまま残ります。翻訳業のように一人会社が多い業界では、「登記上は存在するが実態のない会社」が相当数あると考えておくべきで、その確かめ方は会社の実在・倒産を確認する方法にまとめています。
応募・取引で翻訳会社を見るときの3つの視点
TSRの数字とうちの登記データを重ねると、翻訳会社を外から見るときの視点は3つに絞れます。
- 「翻訳」を名乗るかどうかは規模と関係がない:大手ほど社名に翻訳が入っていない。社名で業界を判断せず、事業内容と取引先を見る
- 公表されている数字がない会社が大半:従業員数がgBizINFOにあるのは271法人中3社。求人票の「従業員数」は会社の自己申告で、外から裏づける手段がほぼない
- 登記の「活動中」と事業の「継続中」は別物:休廃業・解散が年50件出ている業界で、登記だけ残る会社は珍しくない。倒産の手続きと登記の関係は倒産の種類の違いで整理しています
TSRは記事の最後で「AIと翻訳業は競合か、共生か」と問いを立てています。うちのデータで言えることは、その問いに答える前の段階、つまり「業界の8割以上は公的なデータに規模すら出てこない小さな会社と団体でできている」という事実のほうです。ニュースになるのは100社の合計値ですが、求人や取引で向き合うのは、その外側にいる271法人のような会社です。
よくある質問
翻訳業の倒産は増えているのですか
TSRの集計では、2026年1-8月の翻訳業の倒産は3件で、前年同期の1件より増えています。ただし年5件未満の年が長く続いていた業界なので、件数そのものは小さく、「急増」と呼ぶ段階ではありません。倒産より目立つのは休廃業・解散で、2024年53件・2025年50件と、倒産の10倍以上の会社が静かに事業をやめています。
社名に「翻訳」が付いていれば翻訳会社と考えてよいですか
社名に翻訳が付いている法人271件には、一般社団法人や特定非営利活動法人などの業界団体が22件含まれます。逆に、翻訳業の大手には社名に翻訳が入らない会社が多くあります。社名は目安にしかならず、事業内容は公式サイトや求人票の職種で確認する必要があります。
翻訳会社の従業員数や売上は調べられますか
社名に「翻訳」を含む271法人のうち、gBizINFOに従業員数が出ているのは3社だけでした。上場している翻訳センターのような会社は有価証券報告書で確認できますが、それ以外は公的なデータにほぼ出てきません。求人票に書かれた従業員数を外から裏づける手段は、現状ではほとんどないと考えたほうが安全です。
AIの影響で閉鎖した翻訳会社は登記で分かりますか
分かりません。法人番号公表サイトの閉鎖事由は「清算の結了等」「合併による解散等」「登記官による閉鎖」「その他」の4区分だけで、閉鎖の理由は書かれていません。2026年に閉鎖した翻訳を名乗る法人4件のうち3件は登記官による閉鎖で、これは長年登記が動いていない会社を法務局が整理したもので、AIとの因果関係は登記からは読めません。
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この記事のデータについて:しょくばログの会社データベース(国税庁法人番号公表サイト由来・全5,791,529法人、2026年9月21日時点)で、商号に「翻訳」を含む法人271件を集計しました。法人種別・所在地・閉鎖事由は法人番号公表サイトの区分に従い、従業員数・設立年は経済産業省gBizINFOの公表値です。翻訳業100社の業績・倒産・休廃業の件数はすべて東京商工リサーチの2026年9月21日公表記事からの引用で、当サイトで独自に集計した数字ではありません。