✍ 古家あきら | 2026-09-22 更新

減資した会社はやばいのか — 資本金を「1億円ちょうど」にした会社は建設業8.2万社で531社、EDINET提出6,906社では最頻値の470社。お金は1円も出ていかない減資の正体

先に結論です。減資した会社が「やばい」とは限りません。むしろ多くの減資では、会社からお金は1円も出ていきません。 減資(資本金の額の減少)は、貸借対照表の「資本金」という欄の数字を減らして「資本剰余金」などに振り替える手続きで、現預金も純資産も変わらないものが大半です。目的は大きく3つ。①税制上の線である資本金1億円以下に入って法人税・法人事業税の負担を軽くする、②赤字で積み上がった欠損を資本金と相殺して財務諸表をきれいにする(欠損填補)、③持株会社化や分社化などの組織再編。危ないかどうかは「減資したか」ではなく、官報の減資公告に「欠損の填補」と書かれているか、直近の決算が赤字か、減資と同時に何が起きているかで見分けます。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「取引先が資本金を1億円に減らしたんですが、大丈夫でしょうか」「内定先の資本金が去年まで数十億円あったのに、登記を見たら1億円になっていました」という相談をたまにもらいます。データベース側から見ると、減資はかなり「よくあること」で、しかも減らした先の金額は圧倒的に1億円ちょうどに集まっています。ここでは、会社法と税法の一次資料で減資の仕組みを確認したうえで、うちのデータベースにある建設業許可つきの会社81,542社とEDINETに書類を出している会社6,906社の資本金を数えて、「1億円」がどれだけ特別な数字なのかを見ていきます。

減資とは何か — 会社からお金が出ていかない「無償減資」が大半

減資は会社法447条に定められた手続きで、正式には「資本金の額の減少」と言います。株主総会の決議で「減少する資本金の額」「減らした分を準備金にするかどうか」「効力発生日」を決め(447条1項)、原則は特別決議(議決権の3分の2以上・309条2項9号)が必要です。ただし、定時株主総会で、欠損の額を超えない範囲の減資をする場合だけは普通決議でよいとされています。

ここで押さえておきたいのは、減資には2種類あることです。

ニュースで「○○社が資本金を1億円に減資」と出るときは、ほぼ無償減資です。資本金が300億円から1億円になっても、会社の金庫の中身は減資の前後で同じ、ということです。「資本金が減った=会社が小さくなった、お金がなくなった」という直感は、ここでは当てはまりません。資本金は「今のお金」ではなく「設立時に払い込んだ額」であることは別の記事で書きましたが、減資はその「払い込んだ額」の名目を書き換えるだけの手続きです。

債権者保護手続 — 官報公告が「減資の理由」を教えてくれる

減資は債権者にとって「会社の元手が減る」形になるため、会社法449条で債権者保護手続が義務づけられています。会社は減資の内容を官報に公告し、知れている債権者には個別に催告して、1か月以上の異議申述期間を置かなければなりません(449条2項)。この官報公告は誰でも読めるので、外から減資を確認する最初の手がかりになります。

公告の文面には、減資の目的が書かれていることがよくあります。「欠損の填補に充てるため」とあれば赤字の穴埋め、何も書かれていなければ税務目的や資本政策と読めます。後述の「見分け方」で使います。

登記に残る — 資本金の額は登記事項

資本金の額は登記事項(会社法911条3項5号)なので、減資をすると2週間以内に変更登記をしなければなりません(915条1項)。登記簿は誰でも取れるので、履歴事項全部証明書の「資本金の額」欄を見れば、減資前の金額に下線が引かれ、「金1億円 令和5年3月31日変更 令和5年4月○日登記」のように、いつ・いくらからいくらに減らしたかが読めます。

なぜ「1億円ちょうど」なのか — 税制の線が3本、すべて1億円で引かれている

減資後の資本金が1億円に集まる理由は、日本の税制が「資本金1億円」を境に会社を大企業と中小企業に分けているからです。主なものを3本挙げます。

1. 法人税の中小法人特例:資本金1億円以下の法人(ただし資本金5億円以上の法人の100%子会社などは除く)は、年800万円以下の所得に軽減税率15%が適用され、欠損金の繰越控除が所得の100%まで使え(1億円超は50%)、交際費も年800万円まで損金にできます。 2. 法人事業税の外形標準課税:資本金1億円超の法人は、所得(利益)に対する課税のほかに、付加価値額(人件費など)と資本金等の額に対する課税を受けます(地方税法72条の2)。赤字でも人件費や資本金に応じて税金がかかるため、赤字の大企業ほど「1億円以下に落として外形標準課税から外れる」インセンティブが強くなります。 3. 中小企業向けの各種特例:少額減価償却資産の即時償却、各種の補助金・優遇税制の対象要件など、多くの制度が「資本金1億円以下」を使っています。中小企業の定義が業種によって資本金と従業員数で決まることとは別の線ですが、税の世界では1億円が事実上の中小企業の境目です。

つまり、資本金を1億100万円にしても1円も得をしませんが、1億円ちょうどまで落とせば上の全部に入れる。だから減資先は「1億円ちょうど」になります。9,000万円や5,000万円にしない会社が多いのは、下げすぎると対外的な見え方(信用)が落ちる一方で、税制上のメリットは1億円で全部取れるからです。

減資はどれくらい起きているのか — 1年で1,235社が「1億円以下」に

東京商工リサーチの調査(2023年7月18日公開)によると、2023年3月末までの1年間で資本金1億円超から1億円以下に減資した企業は1,235社で、前年(959社)から28.7%増でした。内訳を見ると「やばい会社の駆け込み」という単純な話ではありません。

売上100億円を超える会社が「中小企業」の税制に入るために資本金を1億円にする——これが「疑似中小企業」と呼ばれて問題視された現象です。同調査は具体例として、エイチ・アイ・エス(H.I.S.)が2022年10月に247億9,883万965円から1億円へ、日医工が2023年3月31日に359億7,586万5,942円から1億円へ減資したことを挙げています。うちのデータベースでH.I.S.を見ると、EDINET由来の資本金は「100(百万円)」=1億円、一方でgBizINFO由来の従業員数は4,953人。従業員5,000人近い会社の資本金が1億円、これが減資後の姿です。

総務省の検討会資料では、資本金1億円以下への減資などにより、外形標準課税の対象法人数は制度導入時の約3分の2まで減っていたとされています。減資が例外的な出来事ではなく、制度の想定を崩すほど一般化していたことがわかります。

うちのデータベースで「1億円の崖」を数えた — 建設業許可81,542社

しょくばログの会社データベースには、国税庁法人番号公表サイト由来の活動中の会社5,028,697社に、都道府県が公開している建設業許可業者名簿(東京・大阪・新潟・福島の4都府県)の資本金を紐づけた81,542社があります。減資後の会社が本当に「1億円ちょうど」に集まるなら、資本金の分布に1億円で崖ができているはずです。数えた結果がこちらです(2026年9月22日時点)。

| 資本金 | 社数 | 割合 | |---|---|---| | 1,000万円未満 | 42,782社 | 52.5% | | 1,000万円ちょうど | 20,622社 | 25.3% | | 1,000万円超〜5,000万円未満 | 14,090社 | 17.3% | | 5,000万円ちょうど | 1,301社 | 1.6% | | 5,000万円超〜1億円未満 | 1,615社 | 2.0% | | 1億円ちょうど | 531社 | 0.7% | | 1億円超〜3億円以下 | 209社 | 0.3% | | 3億円超〜10億円未満 | 205社 | 0.3% | | 10億円以上 | 187社 | 0.2% |

崖は明確です。1億円ちょうどが531社あるのに対して、1億円超〜2億円以下は120社、そのうち1億円超〜1億5,000万円以下はわずか53社。1億円ちょうどの531社と比べると、1億円を少し超えた帯の会社は10分の1です。逆に、1億円の手前の9,000万円以上1億円未満は483社で、ここには9,800万円(68社)・9,500万円(59社)・9,900万円(46社)という「1億円の少し下」に置いた会社が並びます。

5,000万円超〜3億円以下の範囲で、社数が多い金額を並べるとこうなります。

1億円の上の金額で最も多い2億円が37社。1億円ちょうどの531社は、その14倍です。この分布は建設業に限ったものですが、建設業は公共工事の入札で経営事項審査を受けるため資本金を「見せる」必要のある業種で、それでも1億円で止まる会社が圧倒的に多い、ということです。もちろん、531社の全部が減資でここに来たわけではなく、設立時や増資で1億円にした会社も含まれます。ただ、1億円という数字が「ここを超えると損をする線」として機能していることは、この崖が示しています。

EDINET提出会社6,906社では「1億円」が最頻値

もう1つ、上場企業や有価証券報告書を出している会社の側からも数えました。うちのデータベースにはEDINET(金融庁の開示システム)から取り込んだ資本金があり、活動中の6,906社が対象です。単位は百万円なので、「100」が1億円です。

有報を出すような会社は資本金が数十億〜数千億円のイメージがありますが、金額を1つずつ数えると最頻値は1億円でした。2番目に多い5,000万円が132社なので、1億円は3.6倍の差をつけて1位です。この470社には、H.I.S.や日医工のように大きな減資を経て1億円になった会社もあれば、コカ・コーラボトラーズジャパンやユニチカ、地方新聞社のように、うちのデータベース上で資本金1億円と記録されている会社が業種を問わず並びます。会社が上場しているか確認する方法で書いたとおり、上場と資本金の大きさは別物です。

データベースの資本金は「いつの値か」を必ず見る — 日医工で起きていること

減資を外から確認するときに、うちのような会社データベースが持つ弱点も正直に書いておきます。日医工の場合、うちのデータベースのEDINET由来の資本金は「100」=1億円ですが、同じ会社のgBizINFO由来の資本金は259億7,500万円のままです。gBizINFO側の値は2022年6月30日取得のEDINETデータをもとにしており、2023年3月31日の減資が反映されていません。国が運営するgBizINFOでもこうなるので、民間の会社情報サイトで資本金が減資前のままになっていることは珍しくありません。うちも例外ではなく、しょくばログの日医工の会社ページには、2026年9月22日時点でgBizINFO由来の「25,975,000,000円(約259億7,500万円)」が表示されています。EDINET由来の1億円はデータベースの中には入っているのに、画面に出ているのは古いほうの値です。この記事を書く過程で気づいたので、表示の優先順位は直します。

つまり「資本金が○億円」と書いてあるサイトを1つ見ただけでは、減資の有無はわかりません。最新の値が確実に取れるのは登記簿(履歴事項全部証明書)と、直近の有価証券報告書・官報公告です。会社の資本金を無料で調べる方法では登記・gBiz・国税庁の使い分けを書きましたが、減資が疑われる会社では「値が違う情報源が2つある」こと自体が、減資のサインになります。

「やばい減資」と「そうでない減資」の見分け方 — 5つのチェック

減資した会社を評価するときは、次の5点を順番に見ます。上から順に、危険度の高いサインです。

1. 官報公告に「欠損の填補」とあるか:減資で減らした資本金を累積赤字の穴埋めに使うのが「欠損填補のための減資」です。これが書かれていれば、その会社は資本金を食いつぶすほどの赤字を過去に出しています。ただし欠損填補の減資そのものは、財務諸表をきれいにして復配や増資をしやすくする前向きな手続きでもあります。「赤字だった事実」と「これからどうするか」を分けて見ます。 2. 直近の決算が赤字か・何期連続か:黒字の会社が1億円に減資するのは、ほぼ税制目的です。赤字が続いている会社の減資は、税負担軽減と欠損填補の両方がからみます。決算公告を出していない会社では、官報の減資公告に貸借対照表の要旨が載ることがあるので、そこで確認します。 3. 有償か無償か:株主に払い戻す有償減資なら、会社からお金が出ています。上場企業では公告や適時開示に明記されます。非上場の同族会社の有償減資は、株主構成の整理(オーナーの退任など)で使われることが多く、それ自体が危険とは言えませんが、資金の流出先は気にする価値があります。 4. 減資と同時に何が起きているか:民事再生や私的整理と組み合わさった「100%減資」(既存株主の持分をゼロにして、スポンサーが新たに出資する)は、経営破綻の一部です。一方で持株会社化・分社化にともなう減資は組織再編です。資本金10億円でも倒産する会社で書いたように、資本金の額そのものより「その会社に今起きていること」を見ます。 5. 従業員数・売上高と資本金の乖離:従業員4,953人で資本金1億円のH.I.S.のように、規模と資本金が釣り合っていない会社は、減資を経ている可能性が高いです。乖離があること自体は問題ではなく、「なぜその額なのか」を登記の変更履歴で確認する合図です。

これらを1つずつ確かめると、「減資=やばい」でも「減資=節税だから問題なし」でもなく、その会社ごとの事情が見えてきます。就職・転職で見るなら、②の赤字の連続と④の再生手続きの有無が実質的な判断材料で、税制目的の1億円減資は、給与や雇用の安定性にはほとんど関係がありません。

減資を外から確認する手順

1. 登記簿を取る:法務局の窓口・郵送・「登記情報提供サービス」で履歴事項全部証明書(または登記情報)を取得。「資本金の額」欄の変更履歴で、減資の日付と金額がわかります。直近3年より前の変更は「閉鎖事項証明書」が必要です。 2. 官報を検索する:国立印刷局の官報情報検索サービス、または「官報決算データベース」で会社名を検索。減資公告の文面(欠損填補の有無・貸借対照表の要旨・異議申述期間)を読みます。 3. EDINETと適時開示:上場企業なら、有価証券報告書の「提出会社の状況」に資本金の推移、適時開示に減資の目的が書かれています。 4. 会社データベースは「取得日」を見る:gBizINFOをはじめ、会社情報サイトの資本金には出典と取得日が書かれていることがあります。取得日が減資の効力発生日より前なら、その値は減資前のものです。しょくばログの会社ページも現時点ではgBizINFO由来の値を表示しているので、登記簿・有報・官報で最新の値を確かめてください。

2025年4月から「1億円に落とせば外れる」が通用しなくなった

減資ブームへの対応として、令和6年度税制改正で外形標準課税の対象法人の判定が見直されました。東京都主税局の案内によると、次の要件をすべて満たす法人は、資本金が1億円以下でも外形標準課税の対象になり続けます。

適用は2025年(令和7年)4月1日以後に開始する事業年度からです。無償減資は資本金を資本剰余金に振り替えるだけなので、資本金+資本剰余金の合計は減資の前後で変わりません。この合計で判定されるようになった結果、「資本金だけ1億円にする」やり方では外形標準課税から外れられなくなりました。さらに2026年(令和8年)4月1日以後開始事業年度からは、払込資本50億円超の親法人の100%子法人で、資本金1億円以下かつ払込資本2億円超の会社も対象に加わります。

ただし、この改正の公布日より前に減資した法人は経過措置の対象外で、外形標準課税の対象にはなりません。つまり、2023年3月までの1,235社のような「駆け込み減資」を済ませた会社は、そのまま中小法人の税制に残っています。今後、減資の件数はいったん落ち着くと見られますが、法人税の中小法人特例の線(資本金1億円以下)は今も変わっていないので、1億円ちょうどの会社が減ることはないでしょう。

よくある質問

減資した会社は倒産しやすいのですか

減資それ自体は倒産の予兆ではありません。東京商工リサーチの調査では、2023年3月末までの1年間に1億円以下へ減資した1,235社のうち黒字が546社(44.2%)で、売上高100億円以上が174社ありました。注意が要るのは、官報公告に「欠損の填補」とあり、かつ直近の決算が赤字で、再生手続きや私的整理と同時に減資が行われているケースです。減資の事実より、その周辺で起きていることを見てください。

減資すると会社のお金は減りますか

無償減資なら1円も減りません。資本金の額を減らして同額を資本剰余金に振り替えるか、累積赤字と相殺する会計処理で、現預金も純資産の合計も変わりません。株主に払い戻す有償減資の場合だけ、会社からお金が出ていきます。上場企業の「資本金を1億円に減資」というニュースは、ほぼ無償減資です。

なぜ減資先が「1億円ちょうど」ばかりなのですか

法人税の中小法人特例(軽減税率・欠損金の全額繰越控除・交際費の定額控除)と、法人事業税の外形標準課税の対象外になる線が、いずれも「資本金1億円以下」で引かれているからです。うちのデータベースでも、建設業許可のある81,542社のうち1億円ちょうどが531社、1億円超〜2億円以下は120社と、1億円で会社の数が急に減ります。EDINET提出会社6,906社では1億円が最頻値(470社)でした。

減資したかどうかを外から確認する一番確実な方法は

登記簿(履歴事項全部証明書)の「資本金の額」欄です。変更の日付と前後の金額が残ります。3年より前の変更は閉鎖事項証明書で確認します。官報の減資公告には理由(欠損填補の有無)と貸借対照表の要旨が載ることがあり、こちらは減資の「性質」を知る手がかりになります。会社情報サイトの資本金は減資前の値のままになっていることがあるので(gBizINFOの日医工の例)、1つの情報源だけで判断しないでください。

2025年の税制改正で減資はなくなりますか

外形標準課税については、前年度に対象だった法人で資本金+資本剰余金が10億円超なら、資本金を1億円以下にしても対象に残る仕組みになりました(2025年4月1日以後開始事業年度から)。ただし法人税の中小法人特例は資本金1億円以下の線がそのままなので、減資の動機が全部なくなるわけではありません。また改正の公布日前に減資した法人は経過措置の対象外で、引き続き外形標準課税の対象になりません。

まとめ

減資した会社が「やばい」かどうかは、減資したという事実からは決まりません。減資の大半は会社からお金が出ていかない無償減資で、行き先が「資本金1億円ちょうど」に集まるのは、法人税と外形標準課税の線がそこにあるからです。うちのデータベースで建設業許可のある81,542社を数えると、1億円ちょうどが531社に対して1億円超〜2億円以下は120社。EDINET提出会社6,906社では1億円が最頻値の470社。見分けるときは、官報公告の「欠損の填補」の文言、直近の赤字の連続、有償か無償か、再生手続きとの同時進行、規模と資本金の乖離の5点を順に確認し、資本金の値は登記簿で「いつ・いくらから」を見てください。会社情報サイトの資本金には減資前の数字が残っていることがあります。

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参照した一次資料

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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