✍ 古家あきら | 2026-09-25 更新
鳶(とび)工事業の倒産が1〜8月で110件、16年ぶりに100件超え — 社名に「鳶」「足場」を含む会社は全国に1,054社、53.7%が有限会社(DB実測)
先に結論です。鳶工事業の倒産が増えている理由は「仕事がない」より「人がいない・コスト高に対応しきれない」側にあり、倒産した会社のほとんどは従業員10人未満の小さな会社です。 求人倍率が7倍を超える職種で、小さな会社ほど人を集められずに仕事を受けきれなくなっています。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、建設の専門工事の会社は「名前で検索しても情報がほとんど出てこない」ことが多いと感じます。今回はこのニュースを入口に、社名に「鳶」「足場」を含む会社を登記データで数え、外から何が分かって何が分からないのかを書きます。
出典:鳶工事業が苦境、倒産が過去最多ペース 16年ぶりに100件超え、人手不足とコスト対応がネックに(東京商工リサーチ・2026年9月23日)
公表されている数字
東京商工リサーチの発表で確認できる範囲は次のとおりです。推測は混ぜていません。
- 2026年1〜8月の鳶工事業の倒産:110件(前年同期比26.4%増)
- 1〜8月で100件を超えたのは2010年(101件)以来、16年ぶり
- 1〜8月の最多はリーマン・ショック後の2009年の105件で、今年はそれを上回っている
- 年間の最多は2010年の148件。今のペースが続くと2026年は170件も視野に入る
- 原因:売上不振78件(70.9%)、赤字累積24件(21.8%)
- 「人手不足」倒産:19件(前年同期10件)
- 規模:資本金1,000万円未満が98件(89.0%)、従業員10人未満が101件(91.8%)
- 有効求人倍率(7月):全業種1.18倍に対し、鳶職人を含む建設躯体工事従事者は7.94倍
- 業績を5期比べられる鳶工事業者1万5,941社のうち、完工高1億円未満の業者は赤字企業が37.5%。10億〜50億円の業者の赤字率は7.0%
仕事を探している人1人に対して、求人が約8件ある計算です。人がそろわなければ現場を受けられず、受けられなければ売上が落ちる。原因の7割が「売上不振」になっているのは、こうした流れの結果だと読めます。
社名に「鳶」「足場」を含む会社を数えてみた
鳶工事業は、登記データに「業種」の欄がありません。そこで、しょくばログの元データである国税庁の法人データから、社名に「鳶」または「足場」を含む会社(株式会社・有限会社・合名会社・合資会社・合同会社)を数えました。
- 該当する会社(閉鎖済みを含む):1,145社(「鳶」を含む1,070社、「足場」を含む75社)
- そのうち閉鎖済み:91社(7.9%)
- 全国の会社全体の閉鎖済みの割合:13.5%
- 今も残っている会社:1,054社
閉鎖済みの91社の内訳は、清算の結了などが66社、登記官による閉鎖(長く登記の動きがない休眠会社の整理)が24社、合併が1社でした。倒産しても清算の手続きが終わるまでは登記が残るため、TSRが数える倒産件数と、登記の閉鎖は一致しません。倒産の種類ごとの違いは破産・民事再生・会社更生・特別清算の違いの記事にまとめています。
注意点もあります。鳶工事の会社の多くは「○○工業」「○○建設」のように、社名に「鳶」を入れていません。ここで数えたのは社名から業種が分かる会社だけで、鳶工事業者全体(TSRの分析では1万5,941社)のごく一部です。
半分以上が有限会社、首都圏に半分が集まる
今も残っている1,054社を会社の形で分けると、こうなりました。
- 有限会社:566社(53.7%)
- 株式会社:455社(43.2%)
- 合同会社:27社(2.6%)
- 合資会社:4社
- 合名会社:2社
全国で今も残る会社では、有限会社は32.0%、合同会社は9.2%です。社名に「鳶」「足場」を含む会社は、有限会社が株式会社より多く、新しい形の合同会社は全国の4分の1ほどの割合でした。有限会社は2006年から新しく作れなくなった形なので、長く続く親方の会社が多い業界だと、登記の形から読めます。有限会社で働くことについては有限会社に就職するのは不利なのかという記事に書いています。
本店の都道府県で見ると、東京都174社、神奈川県147社、千葉県113社、埼玉県89社で、この1都3県だけで523社(49.6%)になりました。全国の会社全体では、1都3県の割合は40.2%です。建物の建設が多い首都圏に、鳶の会社も寄っていることが分かります。
登記データで分かること、分からないこと
登記データから分かるのは、会社の名前・所在地・会社の形・閉鎖の有無までです。従業員数や資本金、赤字かどうかは、ほとんど分かりません。しょくばログでも、この1,054社のうち従業員数を確認できたのは24社だけでした。
TSRの数字では、倒産した会社の9割以上が従業員10人未満です。小さな会社ほど外から情報が見えにくく、しかも倒産しやすいという組み合わせになっています。
鳶の会社で働く・取引するときに見ておきたいこと
特定の会社を責める話ではなく、一般的な見方として書きます。
1. 建設業の許可を持っているか。 1件500万円以上の工事を請けるには建設業の許可が要り、鳶の仕事は29業種のうち「とび・土工・コンクリート工事」にあたります。許可の調べ方は会社の許認可の調べ方の記事にまとめています。 2. 労働保険・社会保険に入っているか。 高所作業が多い仕事なので、労災保険は特に大事です。確認の方法は労災・雇用保険の加入を確かめる記事と社会保険の加入を確かめる記事をどうぞ。 3. 人の出入りと支払いの変化。 職人が次々に辞める、支払いが遅れるといった変化は、中にいる人や取引先がいちばん早く気づけるサインです。人手不足で倒産する会社の見分け方は人手不足倒産の見分け方の記事にまとめています。
よくある質問
鳶の仕事はなくなっているのですか?
そうとは言えません。TSRは、人手不足とコストへの対応を業界のネックに挙げています。TSRの分析では、完工高10億〜50億円の業者の赤字率が7.0%なのに対し、1億円未満の小さな業者では37.5%で、規模による差が大きくなっています。
求人倍率7.94倍とはどういう意味ですか?
仕事を探している人1人に対して、求人が約8件あるという意味です。全業種の1.18倍と比べると、鳶職人を含む建設躯体工事の仕事は、人を集めるのがとても難しい状態です。
社名に「鳶」と入っていない会社は、この記事の数に入っていますか?
入っていません。登記データには業種の欄がないため、社名から分かる会社だけを数えました。鳶工事業者全体の数は、この記事の1,054社よりずっと多いはずです。
勤め先や取引先が心配なときは何を見ればいいですか?
建設業の許可、労働保険・社会保険の加入、登記簿(履歴事項全部証明書)で役員や本店の変更を確認できます。しょくばログの会社ページでも、法人番号・所在地・閉鎖の有無を無料で確認できます。
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※登記データの数値は、国税庁法人番号公表サイトのデータをもとに、しょくばログが2026年9月25日時点で集計したものです。「会社」は株式会社・有限会社・合名会社・合資会社・合同会社の合計です。倒産件数・求人倍率・業績の数値は東京商工リサーチの発表によります。