✍ 古家あきら | 2026-09-17 更新
ミシュラン一つ星「LIAISON」を運営していたThe DINING(大阪)が破産へ — 約30店舗・年商23億5,000万円でも営業赤字、負債約12億円は近畿の飲食店で今年最大。登記では「現存」、しかも建設業許可を持っていた飲食会社を、社名に「ダイニング」を持つ1,311法人と大阪市北区4万651法人のデータで読む
先に結論です。2026年9月16日、帝国データバンクは、大阪市北区芝田の株式会社The DINING(法人番号 7120001167588)が9月3日までに事業を停止し、自己破産申請の準備に入ったと公表しました。2011年12月設立、ミシュランガイドで一つ星の評価を得ていたフレンチ「LIAISON」のほか、宮崎料理の「万作」「宮崎酒場ゑびす」、豚しゃぶ、串焼、マグロ居酒屋などを大阪駅周辺の百貨店・商業ビル、京都、名古屋、東京都心で約30店舗展開していた会社です。2025年9月期の年売上高は約23億5,000万円。負債は債権者約300名に対して約12億円(変動の可能性あり)で、近畿の飲食店では今年最大の負債額とされています。
出典:【近畿の飲食店では今年最大の負債額】ミシュラン一つ星フレンチ「LIAISON」を運営していたThe DINING(大阪)が破産へ(帝国データバンク・Yahoo!ニュース・2026年9月16日) 出典:【大阪】The DININGが自己破産へ ミシュラン「LIAISON」運営、約30店舗展開も負債約12億円(JC-NET・2026年9月17日)
しょくばログという会社データベースを運営していると、飲食店で働く人や飲食店に食材を納める人から、「星を取っている店の会社なら大丈夫ですよね」「30店舗もある会社なら安心ですよね」という相談を受けます。今回のThe DININGは、その両方を満たしていました。それでも止まりました。しかも報道を読むと、行き詰まりの理由は「客が来なかった」ではなく、出店を増やすほどコストが先に膨らみ、原材料と人件費の上昇を価格に転嫁できず、営業損益の段階で赤字が続いたことにあります。今日は、「星」「店舗数」「売上」と「会社の安全」がどう別物なのか、そして外から見えるサインはどこにあったのかを、報道で確認できる数字と、うちの登記データ・許認可データで書きます。
公表された事実 — 約30店舗、年商23億5,000万円、負債約12億円
報道で確認できる事実を並べます。数字はすべて報道からの引用で、うちで作ったものはありません。
- 会社名:株式会社The DINING(法人番号 7120001167588)
- 所在地:大阪府大阪市北区芝田2-2-13
- 設立:2011年12月。資本金:1,000万円
- 事業:宮崎料理などの郷土料理店、豚肉しゃぶしゃぶ、串焼店、マグロ居酒屋、フレンチ串揚げ、カレーうどん店など。2017年11月にフレンチレストラン「LIAISON」を開店し、ミシュランガイドで一つ星を獲得
- 店舗:大阪駅近接の百貨店・商業ビル、京都、名古屋、東京都心で約30店舗
- 売上高:2025年9月期 約23億5,000万円
- 損益:営業損益段階から赤字が継続
- 負債:約12億円(変動の可能性あり)。債権者約300名
- 経緯:2026年9月3日までに事業停止。一部店舗の運営は他社へ譲渡。弁護士に事後処理を一任し、自己破産申請の準備中
- 背景:積極出店に伴うコスト負担、原材料価格・人件費の上昇を販売価格へ十分に転嫁できなかったこと、コロナ融資の返済再開と店舗賃料の負担が資金繰りを圧迫(JC-NET)
ここで見てほしいのは、年商23億5,000万円という数字と、営業赤字という事実が同時に成り立っている点です。飲食店の売上は「席数×回転×客単価」で上限が決まり、店を増やせば売上は増えます。しかし、家賃・内装・人件費は店を開けた瞬間から出ていき、価格転嫁ができなければ店が増えるほど赤字も増えます。「売上が伸びている会社」と「利益が出ている会社」は別物です。売上の見方は会社の売上高を調べる方法に書きました。
「一つ星」は料理の評価であって、会社の評価ではない
ミシュランの星は、その店の料理に対する評価です。運営会社の財務、他の29店舗の採算、賃料の重さ、借入の返済スケジュールは、星の審査対象ではありません。The DININGの場合、一つ星の「LIAISON」は2017年に開いた1店舗で、会社の売上の大半は郷土料理店や居酒屋など他の業態が担っていたと考えるのが自然です(店舗別の売上は公表されていないので、ここは推測です)。
応募者や納入業者の立場で言い直すと、「看板店の評判」と「給料や売掛金を払う会社の体力」は切り離して見る必要があります。看板店で働くつもりで入社しても、雇い主は会社であり、会社が止まれば看板店も一緒に止まります。実際、今回も「一部店舗の運営は他社へ譲渡」とあり、店は残っても会社は残らない形になっています。
登記データでは今も「現存」 — 事業停止から2週間、法人番号の閉鎖にはずれがある
うちの登記データ(国税庁法人番号公表サイト由来)で、The DININGは今日時点で閉鎖日が入っておらず「現存」です。本店は「大阪市北区芝田2丁目2番13号日生ビル東館603」、フリガナは「ザダイニング」。9月3日までに事業を停止し、破産申請の準備に入っていても、登記上は営業している会社と区別がつきません。
これは今回に限った話ではなく、破産手続開始の決定が出て、裁判所からの嘱託で登記が動き、清算が終わるまでには数か月から数年かかります。法人番号のサイトで「現存」と出ることを、「営業している」「安全」と読み替えないでください。この確認の順番は会社の実在・倒産を確認する方法にまとめています。
飲食会社なのに「建設業許可」を持っていた — 出店の速さが許認可データに残っていた
ここからがうちのデータでしか書けない部分です。大阪府の建設業許可データを法人番号で突き合わせると、株式会社The DININGは「建築一式工事業 他」の建設業許可を持つ会社として登録されています(代表者名 平山英夫、資本金1,000万円。この2点は報道とも一致します)。
飲食店の運営会社が建設業許可を持つのは珍しいことです。一般論として、建設業許可は請負金額が一定以上の工事を自社で請け負うために必要で、店舗の内装・造作を外注ではなく自社(または自社名義)で回す体制を取ると、こうした許可が必要になります。約30店舗を短期間で開いた会社が、出店のたびに発生する内装工事を自前で持つ選択をしていたとすれば、許可の存在はその「出店ペースの速さ」を映していると読めます(許可を取った経緯そのものは公表されていないので、ここは解釈です)。
応募前・取引前に確かめてほしいのは、「その会社が本業以外にどんな許認可を持っているか」です。本業と離れた許可は、多角化の証拠であることもあれば、本業の外で固定費を抱えている証拠であることもあります。調べ方は会社の許認可を調べる方法に書きました。
社名に「ダイニング」を持つ法人は全国1,311件、閉鎖率14.6% — 合併による閉鎖が24.1%
うちの登記データで、社名に「ダイニング」を含む法人を数えると全国で1,311件、うち登記が閉鎖されているのは191件(14.6%)です。全法人579万1,529件の閉鎖率が13.2%なので、やや高い程度です。会社種別で分けると、株式会社995件のうち閉鎖154件(15.5%)、合同会社222件のうち29件(13.1%)、有限会社89件のうち7件(7.9%)。都道府県別では東京都481件(閉鎖69件・14.3%)、大阪府114件(閉鎖15件・13.2%)が上位です。
目を引くのは閉鎖の理由です。191件の内訳は、清算の結了等が122件(63.9%)、合併による解散等が46件(24.1%)、登記記録の閉鎖(休眠会社の整理など)が23件(12.0%)。全国の閉鎖法人76万2,832件では合併による解散等は5万9,612件(7.8%)なので、その3倍の比率です。「ダイニング」を名乗る会社は、店舗ごと・ブランドごとに会社を分け、後から統合する動きが相対的に多いことが数字に出ています。複数ブランドを1社で抱えていたThe DININGとは逆の形ですが、どちらも「店の数」と「会社の数」がずれるという点は同じで、応募先・取引先が「どの法人」なのかを最初に確かめる必要があります。
なお、うちのデータの閉鎖率は登記上の閉鎖を数えたもので、倒産件数ではありません。年ごとの増減に使うと休眠会社の一斉整理の影響を受けるため、ここでは断面の比率だけを使っています。
大阪市北区の法人は4万651件、閉鎖率12.2% — 芝田は15.0%
The DININGの本店がある大阪市北区は、うちのデータで4万651法人、うち閉鎖4,969件(12.2%)です。大阪市全体は26万8,197法人・閉鎖3万3,793件(12.6%)なので、北区は市内平均よりわずかに低い水準です。会社種別では、株式会社2万8,106件(閉鎖13.7%)、合同会社5,414件(10.4%)、有限会社3,635件(5.9%)。有限会社の閉鎖率が低いのは、2006年以降新設できず、残っているのが業歴20年以上の会社だけだからで、有限会社に就職するのは不利なのかに書いた全国の傾向と同じです。
本店の町名「芝田」に絞ると1,088法人、閉鎖163件(15.0%)で、北区平均より高くなります。芝田は大阪駅・梅田駅の北側で、雑居ビルの一室に本店を置く会社が多い地域です。The DININGの本店も「日生ビル東館603」で、約30店舗の飲食チェーンの本社が、ビルの一室に登記されていました。店舗の華やかさと本店登記の姿は、往々にして一致しません。
応募前・取引前に確かめる4つのこと
1. どの法人に応募・納品するのかを法人番号で確かめる。ブランド名や店名ではなく、雇用契約・請求書の相手方を特定する。店名から運営会社をたどる手順は店名・サイト名から運営会社を調べる方法。 2. 売上ではなく、店舗数の増え方と損益を見る。2〜3年で店舗が倍増している会社は、家賃と内装の固定費も倍増している。求人の「積極出店中」は、応募者にとって成長の証拠でもあり、固定費の証拠でもある。 3. 本業と離れた許認可・関連会社を見る。建設業許可、不動産、投資など、本業の外にある固定費の存在を確かめる。 4. 「現存」を「営業中」と読まない。登記の閉鎖は事業停止から大きく遅れる。直近の報道・官報・店舗の営業状況を合わせて見る。取引先の見方は取引先の信用を調べる方法。
飲食業の倒産は8月に30年で最多の80件を数えました。星のある店の会社でも、30店舗の会社でも、その80件と同じ理由で止まります。
よくある質問
ミシュランの星を取っている店で働けば、会社も安全ですか
別物です。星は料理への評価で、運営会社の財務は審査対象ではありません。The DININGは一つ星の店を含む約30店舗を運営し、年商23億5,000万円でしたが、営業損益段階から赤字が続いていました。応募先は「店」ではなく「法人」なので、法人番号で運営会社を特定し、その会社全体の状態を見てください。
破産申請の準備に入っている会社が、登記で「現存」なのはなぜですか
登記の閉鎖は、裁判所の破産手続開始決定や清算の結了を受けて動くもので、事業停止からは大きく遅れます。9月3日までに事業を停止したThe DININGも、今日時点でうちの登記データでは閉鎖日が入っていません。「現存」は「営業中」の意味ではありません。
飲食店の会社が建設業許可を持っているのは、悪いことですか
それ自体は違法でも不自然でもありません。店舗の内装工事を自社で請け負うために取る会社はあります。ただし、本業の外にある許認可は、その分の人員・設備・固定費を会社が抱えていることの表れでもあるので、応募前・取引前に「なぜ持っているのか」を確かめる材料になります。
大阪の他の飲食チェーンも危ないということですか
そうは言えません。うちのデータで書けるのは、社名に「ダイニング」を持つ1,311法人の閉鎖率が14.6%、大阪市北区4万651法人の閉鎖率が12.2%という断面の事実までで、個別の会社の危険度は分かりません。今回の学びは「星・店舗数・売上を安全の証拠にしない」「応募先の法人を特定する」という見方の話であって、特定の会社を疑う話ではありません。