✍ 古家あきら | 2026-09-20 更新
書店304社の利益が前年度の4.6倍、でも「増収増益」は13.4%だけ — 社名に「書店」を持つ2,421法人は有限会社が58%・閉鎖率19.2%、千代田区に117法人が集まる登記データで読む
先に結論です。東京商工リサーチ(TSR)が9月18日に公表した「書店」304社の2025年度業績動向調査では、売上高合計が6,121億4,000万円(前年度比1.6%増)、最終利益合計が40億2,600万円(同365.4%増)と、利益が前年度の4.6倍に急回復しました。黒字企業は226社(74.3%)。ただし増収増益は41社(13.4%)だけで、最多は減収減益の87社(28.6%)です。 利益率は0.6%(前年度0.1%)と依然として極めて低く、「書店の利益が4.6倍」という見出しは、大手の法人外商や非書籍事業が押し上げた合計値であって、個々の書店が潤ったという意味ではありません。うちの全国の会社データベースで社名に「書店」を含む法人を数えると2,421法人あり、そのうち465法人(19.2%)が登記を閉鎖しています。全法人平均の閉鎖率13.2%の約1.5倍です。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、業界全体の「合計」と、その中の1社1社の「実態」が食い違う場面によく出会います。今回の書店の数字は、その典型です。この記事では、TSRが公表した数字を確認したうえで、うちの登記データで「書店」を名乗る法人がどんな種別・地域・閉鎖状況にあるかを数え、応募先や取引先として書店を見るときに何を確認すればいいかを整理します。数字はTSRの公表値と、国税庁法人番号公表データに基づくうちの集計だけを使い、それ以外の数字は書きません。
出典:2025年度の書店の利益、前年度の4.6倍に拡大 黒字企業が7割も、「増収増益」は13.4%(東京商工リサーチ TSRデータインサイト・2026年9月18日)
公表された事実 — 利益4.6倍と「減収減益が最多」が同居している
TSRの調査は、同社の企業データベース約440万社から日本産業分類(細分類)の「書店・雑誌小売業(古本を除く)」を対象に、2025年度(2025年4月期〜2026年3月期決算)を最新期として5期連続で売上高が判明した304社を抽出したものです。公表された主な数字は次のとおりです。
- 売上高合計:6,121億4,000万円(前年度比1.6%増)
- 最終利益合計:40億2,600万円(同365.4%増)。過去5年で最高だが、利益率は0.6%(前年度0.1%)
- 売上高100億円以上:16社(構成比5.2%、前年度と同数)。この16社の売上高合計は4,607億4,600万円(同3.7%増)で、全体の75.2%を占める
- 損益別:黒字226社(74.3%、前年度228社)
- 前年度との比較:減収減益87社(28.6%、前年度55社)が最多。横ばい75社(24.6%)、減収増益61社(20.0%)、増収増益41社(13.4%、前年度72社)
- 2025年の休廃業・解散、倒産:71社(前年85社)。2013年から12年連続で新設法人数を上回る
- 2025年の書店倒産:7件(前年比30.0%減)。10件を下回ったのは2022年の5件以来3年ぶり
- 書店の店舗数(日本出版インフラセンター調べ・TSR記事内で引用):9,993店(2026年3月末)。ピークの1998年の2万4,237店の4割
TSRは、大手が書籍・専門データベースを納入する法人外商を柱に成長し、カフェやホビー、トレカ、雑貨などの複合展開、図書館流通・運営の受託、海外展開で売上を伸ばしたと分析しています。つまり「書店の利益4.6倍」は、売上の75%を占める上位16社の動きを強く反映した合計値です。304社のうち売上が伸びたのは145社(47.6%)で半数に届いておらず、増収増益は前年度の72社から41社へ31社減っています。「業界が回復した」と「自分が応募する(取引する)その書店が回復した」は別の話、というのが公表事実から読める最初の教訓です。
登記データで見る「書店」2,421法人 — 有限会社が58%、閉鎖率は全法人平均の約1.5倍
TSRの304社は「5期連続で売上高が判明している」規模の会社です。うちのデータベースは国税庁の法人番号公表データが土台なので、業績が外に出ない町の書店まで入ります。社名に「書店」を含む法人を数えました(2026年9月時点・国税庁法人番号公表データに基づくしょくばログ集計)。
- 「書店」を社名に含む法人:2,421法人。うち登記が閉鎖されたものが465法人で閉鎖率19.2%。閉鎖されていないのは1,956法人
- 参考・全法人平均:5,791,529法人のうち閉鎖762,832法人で閉鎖率13.2%。「書店」はその約1.5倍
- 閉鎖の内訳:清算結了など323、登記記録の閉鎖(みなし解散を含む)124、合併による解散18
- 参考・「書房」を含む法人:880法人、閉鎖173法人(19.7%)。「ブックス」を含む法人:368法人、閉鎖60法人(16.3%)
法人種別は、この業界の年齢構成をそのまま映しています。
- 種別:有限会社1,395(57.6%)、株式会社675(27.9%)、合資会社192(7.9%)、その他法人93、合名会社37、合同会社28、外国会社1
- 種別ごとの閉鎖率:有限会社20.1%(281/1,395)、株式会社21.8%(147/675)、合資会社12.0%(23/192)、合同会社10.7%(3/28)
有限会社は2006年の会社法施行以降は新設できないので、「有限会社が58%」は「社名に書店を持つ法人の6割近くが2006年以前からある」ことをほぼ意味します(法人種別の読み方は法人の種類一覧にまとめてあります)。合資会社が192法人・7.9%というのも目を引きます。全法人に占める合資会社の割合は1.6%(93,240/5,791,529)なので、書店はその5倍です。戦前から続く家業としての書店が、合資会社の形のまま残っているケースが多いのだと読めます。一方、新しい会社形態である合同会社は28法人しかありません。この10年ほどで「書店」という社名で新しく法人を立てる人がほとんどいないことが、登記の側からも見えます。TSRの「12年連続で休廃業・解散、倒産が新設法人数を上回る」という指摘と整合します。
東京都586法人のうち117法人が千代田区 — 「書店」は神保町に集まっている
都道府県分布も数えました。
- 都道府県:東京都586(24.2%)、神奈川県130、大阪府120、愛知県107、千葉県97、埼玉県89、北海道77、兵庫県66、福岡県63、長野県60、新潟県59、静岡県59
- 東京都内の区市:千代田区117、文京区49、新宿区45、世田谷区28、中央区25、台東区23
- 都道府県別の閉鎖率(50法人以上):愛知県25.2%、福岡県23.8%、埼玉県23.6%、長野県23.3%、神奈川県20.8%、京都府20.4%、静岡県20.3%、東京都18.4%、千葉県17.5%、北海道16.9%、新潟県16.9%、兵庫県15.2%、大阪府14.2%、福島県14.0%
東京都586法人のうち117法人が千代田区に集まっているのは、神田神保町の古書店街と出版社集積の影響です。文京区・新宿区にも多く、この3区で211法人と東京都の36%を占めます。閉鎖率を見ると、東京都18.4%は全国の「書店」平均19.2%をやや下回り、東京都以外の1,835法人の閉鎖率は19.5%でした。差はわずかですが、愛知県・福岡県・埼玉県・長野県といった大都市圏の周辺や地方の県で閉鎖率が23〜25%と高めに出ており、書店が消えているのは都心の専門店街よりも、地方の町の本屋のほうだという構図がうっすら見えます。ただし、社名に「書店」を含むかどうかは業種の粗い代理指標です。書店を営んでいても社名に「書店」を持たない会社(TSRが挙げる大手の多くがそうです)は入りませんし、逆に「書店」を名乗りながら不動産賃貸に転じている法人も含まれます。数字は「書店を名乗る法人の断面」として読んでください。
なお、うちの閉鎖データは休眠会社の一斉整理(みなし解散)で年によって大きく跳ねるので、「何年に何社閉鎖した」という年次推移には使っていません。使えるのは、この記事で示したようなある時点での閉鎖率・種別・地域の断面だけです。
応募者・取引先が「書店」を見るときの3つの目印
TSRの調査とうちの登記データを重ねると、書店を応募先や取引先として見るときに確認すべき点が絞れます。
1. その書店の売上の柱が「店頭の本売り」だけか。TSRが増収の要因として挙げたのは法人外商・非書籍の複合展開・図書館運営の受託・海外展開でした。募集要項や会社案内に外商部門や図書館事業、カフェ・雑貨の記載があるかどうかで、上位16社型か、減収減益87社型かの見当がつきます。 2. 法人種別と設立時期。有限会社・合資会社なら2006年以前からの老舗で、事業承継の段階にある可能性が高い。会社の実在・倒産確認の手順で、まず登記が生きているかを確認してください。従業員数の目安は会社の従業員数の調べ方にまとめています。 3. 業界の合計値に引っ張られない。利益率0.6%の業界で「利益4.6倍」は、1社あたりで見ればごく小さい額です。取引先として与信を見るなら取引先の信用の調べ方、業界が伸びていても個社は別だという構図は「伸びている業界」を選んでも安全ではないで扱っています。出版社側の倒産動向は出版業の倒産が7年ぶりに20件超を参照してください。
よくある質問
TSRの「書店304社」と、しょくばログの「社名に書店を含む2,421法人」は同じものですか
違います。TSRの304社は産業分類が「書店・雑誌小売業」で、5期連続で売上高が判明している会社です。うちの2,421法人は国税庁の法人番号公表データで社名に「書店」を含む法人を機械的に数えたもので、業績の有無は問いません。前者は「業績が見える中堅以上」、後者は「町の本屋まで含む登記上の断面」で、両方を並べるとTSRの数字だけでは見えない層の厚さと閉鎖状況が分かります。
閉鎖率19.2%は高いのですか
全法人平均の13.2%と比べると約1.5倍で、高い部類です。うちが同じ方法で数えた「釣具」を社名に含む法人の閉鎖率20.3%とほぼ同じ水準で、どちらも有限会社が多い老舗小売の業種です。ただし、これは「これまでに登記されたすべての法人のうち閉鎖済みの割合」なので、直近1年の倒産件数(TSRによると2025年は7件)とは別の指標です。
利益が4.6倍なら、書店は儲かる業界になったのですか
TSRの数字では利益率は0.6%です。前年度の0.1%から改善したとはいえ、売上100円あたりの利益は60銭です。利益合計40億2,600万円のうちどれだけが上位16社によるものかは公表されていませんが、売上の75.2%を上位16社が占めている構造から、合計値は大手の動きに強く左右されると読むのが妥当です。「儲かる業界になった」と言い切れる材料はありません。
書店に応募・取引するとき、登記以外に何を見ればいいですか
TSRの調査対象になるような規模の会社なら、帝国データバンク・東京商工リサーチの評点の見方で整理したとおり信用調査会社の評点が付いている可能性があります。町の書店の場合は評点が付いていないことが多いので、登記の生死・法人種別・所在地の変遷と、自社サイトや求人票に書かれた事業内容(外商・図書館・非書籍の有無)を突き合わせるのが現実的です。
まとめ
TSRが9月18日に公表した書店304社の2025年度業績は、売上高6,121億円(1.6%増)、利益40億円(4.6倍)、黒字74.3%と、見出しだけなら回復です。しかし増収増益は13.4%で減収減益が最多、利益率は0.6%、売上の75%は上位16社。うちの登記データで社名に「書店」を持つ2,421法人を数えると、有限会社58%・合資会社8%と老舗が中心で、閉鎖率19.2%は全法人平均の約1.5倍、東京都586法人のうち117法人が千代田区に集まっていました。業界の合計値と個社の実態は別物です。応募先・取引先として書店を見るときは、売上の柱・法人種別と設立時期・登記の生死を、合計値の見出しより先に確認してください。
出典:2025年度の書店の利益、前年度の4.6倍に拡大 黒字企業が7割も、「増収増益」は13.4%(東京商工リサーチ TSRデータインサイト・2026年9月18日) 出典:しょくばログ集計(国税庁法人番号公表データに基づく・2026年9月時点)