✍ 古家あきら | 2026-09-15 更新

大田区で創業66年の町工場・木本工業所が破産 — 区の工場は9,190件から3,584件へ。社名から製造業と読める大田区の法人3,695件を数えたら、市区町村で全国1位、有限会社が54%、閉鎖率20.9%は全国の製造業より5ポイント高かった

先に結論です。2026年9月2日、東京地方裁判所が有限会社木本工業所(東京都大田区大森南5丁目)に破産手続き開始決定を出しました。1960年設立。プレス板金後のタップ加工やスポット溶接から始まり、フライス盤、NCフライス、マシニングセンタ、3次元CAD/CAMと設備を足して、1991年からは金型部品加工、機械部品・食品機械部品・自動車やバイク向けのオリジナル部品まで手がけた町工場です。破産管財人は佐々木秀和弁護士。負債総額、事業停止の時期、破綻の原因はいずれも公表されていません。

出典:【東京】大田区で創業66年、精密金属加工の木本工業所が破産 マシニング・NC加工の町工場(JC-NET・裁判所の公告にもとづく倒産情報・2026年9月14日) 出典:大田区工業ガイド(公益財団法人大田区産業振興協会・「大田区ものづくり産業等実態調査(令和7年)」を引用) 出典:大田区工業の歴史(大田区公式サイト)

しょくばログという会社データベースを運営していると、「大田区の町工場」という言葉は、求人でも取引先探しでも一種のブランドとして出てきます。技術力の象徴として語られる一方で、区の工場数は40年以上減り続けています。木本工業所の破産は、負債も原因も出ていない「小口倒産」で、ニュースとしてはこれ以上の情報が増えないでしょう。だからこそ、「ものづくりのまち」の中で、1つの町工場が消えることがどれくらい珍しいのか、珍しくないのかを、区の公式統計と登記データで数えておきます。

公表された事実

裁判所の公告をもとにした倒産情報から、要点をまとめます。

しょくばログの法人台帳で法人番号2010802004245を引くと、本店は公告どおり大森南5丁目3番18号、法人種別は有限会社、登記の閉鎖はまだ記録されていません。破産手続き開始決定は登記されますが、国税庁の公表データに「閉鎖」として反映されるのは手続きが終わってからです。破産したばかりの会社は、登記データの上ではしばらく「稼働中」に見える。これはどの会社でも同じで、実在確認は登記だけでなく公告を見る必要があります(会社の実在・倒産を確認する方法)。

大田区の工場は9,190件から3,584事業所へ

区の公式統計で、まず外枠を確認します。

つまり大田区の製造業は「工場」と聞いて浮かぶ大きな建物ではなく、従業者9人以下の会社が7割を占める、金属加工の小さな事業所の集まりです。木本工業所のような「マシニングと NC フライスで精密部品を削る有限会社」は、この区ではもっとも典型的な形の1つだったことになります。

社名から製造業と読める大田区の法人3,695件を数えた

ここからはしょくばログのデータです。しょくばログは国税庁の法人番号公表データ579万件を台帳にしています。国税庁のデータには業種が無いので、社名に含まれる言葉(製作所・工業・精密・金属・鉄工・鋳造など)から製造業らしい法人を推定しています。「工場の看板が製造業らしくない社名」の会社は拾えず、逆に「工業」を名乗る不動産会社を拾う可能性もある、粗い分類です。その前提で数えました。

大田区で、社名から製造業と読める法人は3,695件です。

有限会社は2006年以降新設できないので、大田区の製造業法人の半分以上は少なくとも20年以上前に作られた会社です。木本工業所も有限会社で、1960年設立でした。有限会社という看板だけで就職に不利だと考える必要はありませんが、「20年以上前から続いている」という事実と「今後も続く」は別の話です(有限会社は就職に不利か)。

市区町村で全国1位

社名から製造業と読める法人の数を市区町村別に並べると、大田区の3,695件は全国1位でした。2位以下は川口市(埼玉県)2,664件、江戸川区2,509件、足立区2,477件、墨田区2,449件、東大阪市(大阪府)2,359件、葛飾区2,021件。ものづくりのまちとして名前が挙がる東大阪市を1,300件以上上回っています。「町工場が減った」と言われながら、登記の上では今も全国でいちばん製造業の法人が集まる自治体です。

「製作所」を名乗る法人は区内に1,481件、閉鎖率23.7%

社名の型で切ると、傾向がもう少しはっきりします。

「◯◯製作所」「◯◯工業所」は、全国のどこよりも大田区に濃く集まり、そして全国よりも高い割合で閉じています。木本工業所は「工業所」を名乗る大田区の有限会社394件のうちの1件でした。

大森南は205件、稼働中157件

木本工業所の本店がある大森南で、社名から製造業と読める法人は205件。閉鎖は48件(23.4%)で、稼働中は157件です。町別に稼働中の件数を並べると、大森西175件、大森南157件、東糀谷131件、矢口120件、西糀谷117件、本羽田114件、西六郷112件、南六郷112件、下丸子108件。区の南側、多摩川と羽田空港に近い一帯に、同じ形の会社が100件単位で並んでいます。1件の町工場が消えたとき、同じ町の中に同じ加工をする会社が100件以上あるというのが大田区の特殊さで、これは仕事の受け皿にも、応募者の転職先にもなります。

従業員数は外から見えない会社が9割以上

区の実態調査では従業者9人以下が約7割ですが、個別の会社の従業員数を外から確かめる手段はほとんどありません。大田区の製造業法人3,695件のうち、経済産業省のgBizINFOに従業員数が載っている会社は134件だけ。その134件のうち9人以下は23件で、区の実態調査の「7割」とは大きく違います。つまりgBizINFOに載る会社は大きい方に偏っていて、小さな町工場ほど公開データに現れません。木本工業所もgBizINFOには社名だけで、資本金も従業員数も空欄でした。

同じ話は、先日の3D測量・建設DXのデータアシスト(仙台)の破産でも書きました。従業員20人以下の会社の財務は外から読めません。従業員数の調べ方は会社の従業員数を調べる方法に、少人数の会社を見るときの注意は社員数が少ない会社は危ないのかにまとめています。

応募前・発注前に見る4点

木本工業所の破産から個社の原因は読めないので、大田区の町工場に応募する・発注するときに、登記データの外で確かめられることだけを書きます。

1. 設備の更新時期:マシニングセンタや3次元CAD/CAMなど、その会社の看板設備が「いつ」入ったか。公式サイトの沿革に年が書いてあれば、最後の投資からの年数が分かる 2. 主要取引先の数と業種:食品機械・自動車・金型のように加工実績が複数業種にまたがっているか、1社の下請けか。面接や商談で聞いて答えが返ってくる会社は、それだけで1つの情報 3. 代表者の年齢と後継:有限会社で設立から40年以上なら、代表の交代があったかを登記の役員欄で見る。区の実態調査でも廃業理由に後継者不足が挙がっている 4. 社会保険の適用事業所検索:日本年金機構の適用事業所検索で、被保険者数のおおよその人数が分かる。公式サイトの従業員数と大きくずれていれば、その差を聞く

まとめ

木本工業所の破産は、負債額も原因も公表されない小口倒産で、これ以上の事実は出てこないでしょう。分かっているのは、1960年設立の有限会社で、設備を足しながら66年続いた大田区の町工場が、2026年9月2日に破産手続きに入ったことだけです。

数字で見ると、大田区は今も社名から製造業と読める法人3,695件で市区町村別に全国1位。ただし閉鎖率20.9%は全国の製造業より5ポイント高く、「製作所」を名乗る法人1,481件では23.7%でした。区の工場数はピークの9,190件から3,584事業所へ減り、残った7割は従業者9人以下です。「ものづくりのまちの町工場」は、技術の看板であると同時に、全国平均より高い割合で閉じている法人群でもある。応募前・発注前には、看板ではなく、設備の年・取引先の数・代表の後継・社会保険の人数の4点を確かめてください。

よくある質問

「社名から製造業と読める法人」とは何ですか?

国税庁の法人番号公表データには業種がありません。しょくばログでは、社名に「製作所」「工業」「精密」「金属」「鉄工」「鋳造」などの言葉を含む法人を製造業と推定しています。看板と違う社名の会社は拾えず、逆に誤って拾う会社もある粗い分類です。区の実態調査(3,584事業所)と件数が近いのは偶然ではありませんが、事業所と法人は単位が違い、個人事業の工場は法人番号を持たないので、そのまま比較はできません。

閉鎖率20.9%は「5社に1社が倒産した」という意味ですか?

違います。登記の閉鎖には、破産のほかに、合併による解散、清算結了(自主廃業)、休眠会社のみなし解散が含まれます。国税庁の公表データで分かるのは「閉鎖された」という事実だけで、原因の内訳は登記簿を個別に取らないと分かりません。「大田区の製造業法人は、全国の製造業より高い割合で登記が閉じている」までが、この数字から言えることです。

有限会社の町工場は、株式会社より危ないのですか?

大田区の製造業法人では、有限会社の閉鎖率22.0%、株式会社20.3%で、差は2ポイント弱です。有限会社は2006年以降新設できないので、有限会社であること自体は「20年以上前からある会社」という意味しか持ちません。木本工業所も有限会社でしたが、法人種別で危険度は読めません。

破産した会社は、しょくばログでいつ「閉鎖」になりますか?

破産手続き開始決定が出ても、国税庁の公表データに「閉鎖」として反映されるのは手続きが終わってからで、数か月から年単位のずれがあります。木本工業所も2026年9月15日時点では「稼働中」の表示です。直近の破産は、裁判所の公告や倒産情報サイトで確かめてください。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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