✍ 古家あきら | 2026-09-13 更新

前株と後株の違い — 法律上の差はゼロ、それでも7割が前株を選ぶ理由を設立年代・業種・会社規模で数えた

先に結論です。前株と後株に、法律上の違いは一切ありません。 信用力も、税金も、登記の手数料も、どちらを選んでも同じです。会社法6条2項が求めているのは「商号の中に株式会社という文字を使うこと」だけで、前に置くか後ろに置くかは決めていません。

ただし、どちらが選ばれているかには、はっきりした偏りがあります。 しょくばログという会社データベースを運営していると、「前株の方が格上」「後株は老舗」といった話を利用者から聞くことがあるのですが、これを全国の株式会社251万社で実際に数えると、俗説の半分は当たっていて、半分は逆でした。

この記事では、会社法の条文で「差がない」ことを確かめたうえで、うちのデータで「では何が前後を分けているのか」を数えていきます。

会社法が決めているのは「文字を入れること」だけ

会社法6条は、商号についてこう定めています。

2項の「商号中に」が全てです。商号のどこかに「株式会社」の4文字が入っていれば要件を満たすので、「株式会社◯◯」でも「◯◯株式会社」でも、法律上は完全に同じ扱いになります。

続く7条は「会社でない者は、会社と誤認されるおそれのある文字を使ってはならない」、8条は「不正の目的で他の会社と誤認されるおそれのある商号を使ってはならない」という規定で、こちらも前後の位置には触れていません。法律の関心は「会社であることが分かるか」「他社と紛れないか」にあり、「どこに置くか」は会社の自由に任されています。

なので、登記のときに前株と後株のどちらかを選ぶことに、法的なメリット・デメリットはありません。登録免許税も、定款の認証手数料も、どちらでも同額です。

全国の株式会社251万社で数えると、前株が71.2%

うちのデータベース(国税庁法人番号公表サイトの公開データを取り込んだもの)で、2026年9月時点で活動中の株式会社2,513,796社の商号を見て、「株式会社」の位置で分けました。

前株が7割、後株が3割弱。おおよそ4社に1社強が後株です。この全国比率は会社の特許・商標を無料で調べる方法でも触れましたが、そちらは「検索で取りこぼす理由」としての紹介でした。今回は、この比率の「中身」を割っていきます。

その前に、中株と旧字体について少しだけ。

中株の725社は、商号の途中に「株式会社」が入る会社です。中身を見ると、「農業生産法人株式会社◯◯」「農地所有適格法人株式会社◯◯」のように、法人の性格を示す肩書きを商号の頭に付けた形が目立ちます。実際、農業・林業に分類される株式会社7,964社のうち384社(4.8%)が中株で、全業種平均の0.03%と比べて桁違いに多い。ほかには「◯◯株式会社札幌店」「◯◯株式会社△△事業部」のように、店舗名や部門名まで商号に含めたケースもあります。これらも会社法6条2項の要件は満たしているので、正式な商号です。

旧字体の「株式會社」66社は、会社名で検索するときの落とし穴のひとつです。「會」を「会」に置き換えて検索すると当たりません。数は少ないですが、会社名で検索しても出てこない理由5つで書いた表記ゆれの、極端な例だと思ってください。

会社の種類で違う — 有限会社は9割が「前」

株式会社以外の会社にも「前・後」はあります。同じデータで、活動中の会社を種類ごとに数えました。

有限会社は圧倒的に「前」です。「有限会社◯◯」が9割以上で、「◯◯有限会社」はかなり少数派。一方で、2006年に制度が始まった合同会社は、株式会社よりも「後」の割合が高い64.5%対35.4%でした。新しい会社形態なのに後ろに置く会社が多いのは、少し意外な結果です。

会社の種類そのものについては法人の種類一覧と見分け方にまとめてあります。

設立年代で数えると、前株は「戦後に増えた」

ここからが、この記事で一番お見せしたかった数字です。

前株と後株の比率は、会社がいつ設立されたかで大きく変わります。 うちのデータベースには経済産業省のgBizINFOから取り込んだ設立年月日があり、活動中の株式会社のうち設立年月日が分かる52,727社を、設立年代ごとに前株の割合で並べました。

戦前に設立された会社は、3社に2社が後株です。 1950年代・60年代もまだ後株が多数派で、前株が過半数になったのは1970年代。そこから1990年代にかけて前株が7割まで伸び、2000年代以降は7割弱で落ち着いています。

つまり「後株は老舗」という感覚は、データの上でも正しい。ただし正確に言えば、「後株の会社は老舗が多い」のではなく、「昔は後株が普通で、前株が主流になったのがここ50年」ということです。「◯◯株式会社」という名前を見て古い会社だと感じるのは、私たちが戦後の会社名の変化を肌で知っているからでしょう。

この設立年代の見方は、会社の設立年から見る「老舗」と「新興」の見分け方の話とつながります。

なお、この52,727社はgBizINFOに設立年月日の登録がある会社に限られるので、株式会社全体(251万社)の完全な縮図ではありません。gBizINFOに情報がある会社は、補助金・許認可・調達などで国の制度に関わった会社に寄っています。それでも、年代ごとの傾きがこれだけ一方向に揃っているのは、偶然では説明しにくい数字です。

業種で数えると、製造業と運輸業は今も後株が多数派

次に業種です。うちのデータベースで日本標準産業分類(大分類)が付いている活動中の株式会社505,614社について、大分類ごとに前株・後株の割合を出しました。

後株が多い順に並べます。

運輸業は3社に2社が後株、製造業は今でも後株がわずかに多数派です。 「◯◯運輸株式会社」「◯◯工業株式会社」「◯◯製作所」という名前を思い浮かべると、感覚としても納得がいくと思います。逆に、飲食・宿泊、生活関連サービス、専門サービスは8割近くが前株。「株式会社◯◯」と名乗るIT企業やコンサルティング会社が多いのも、この並びのとおりです。

これは設立年代の傾きと重なります。製造業や運輸業は歴史の長い会社の比率が高く、飲食・サービス・専門サービスは新しい会社が多い。業種による前後の違いは、その業種の会社の「平均年齢」の違いをかなり反映していると見てよさそうです。ただし、製造業では2000年代以降に設立された会社にも「◯◯製作所株式会社」型の命名が引き継がれている印象があり、業種の慣習それ自体が効いている部分もあると思います(ここはうちのデータでは業種×年代の掛け合わせが薄く、断定はしません)。

ここで使った505,614社は、業種の大分類が付けられた会社に限っています。うちのデータベースでは活動中の株式会社の8割は業種が未分類なので、業種別の数字は「分類できた会社の中での比率」として読んでください。

会社規模で数えると、「前株=大企業」は逆だった

「前株は大企業に多い」という話を、私は何度か聞いたことがあります。これも数えました。

gBizINFOに従業員数の登録がある活動中の株式会社111,614社を、従業員数の階級で分けて前株の割合を出します。

きれいに、規模が大きいほど前株が減ります。 従業員1〜9人の会社では4社に3社が前株ですが、300人を超えると後株の方が多くなり、1,000人以上ではほぼ半々。資本金でも同じで、gBizINFOに資本金の登録がある会社のうち資本金10億円以上の2,929社では、前株は42.4%にとどまります。

つまり「前株=大企業」は逆です。大きい会社ほど後株が多い。 これも設立年代で説明がつきます。従業員1,000人を超える規模まで育つには時間がかかるので、大企業には設立の古い会社が多く、古い会社には後株が多い。前株か後株かは会社の「格」ではなく、会社の「年齢」の影を見ているというのが、データから言える一番素直な読み方だと思います。

会社の規模の読み方そのものは会社の規模を調べる方法に、従業員数の調べ方は会社の従業員数を無料で調べる4つの方法にまとめてあります。

都道府県では、九州・沖縄が「前株」寄り

地域差もありますが、業種や年代ほど大きくはありません。活動中の株式会社2,513,796社を本店所在地の都道府県で分け、前株の割合が高い順と低い順を出します。

前株の割合が高い都道府県

前株の割合が低い都道府県

大都市圏で見ると、東京都は70.1%、大阪府は68.1%、愛知県は71.5%、神奈川県は73.1%。 大阪が全国平均より後株寄りなのは、製造業・卸売業の老舗が多い土地柄と符合します。北陸(福井・富山)が後株寄りなのも、繊維・機械などの製造業の集積を考えると分かる気がします。

実務で前後が効いてくる3つの場面

法律上は同じでも、日々の実務では前株・後株の違いが「検索」と「並び順」で効いてきます。

1. 会社名の検索で取りこぼす。 国税庁の法人番号公表サイトも、J-PlatPat(特許・商標)も、行政処分の公表リストも、会社名を文字列で照合します。「株式会社◯◯」で完全一致検索をかけると、相手が後株なら当たりません。活動中の株式会社の28.8%は後株なので、完全一致検索は4回に1回以上は外れる計算です。対処は「株式会社」を外して屋号だけで部分一致検索すること。手順は会社名から法人番号を調べる方法に書いています。

2. 五十音順・アルファベット順の並びが変わる。 前株の会社を「株式会社」込みで並べると、全部「か」の欄に集まります。名簿や取引先台帳を作るときは、法人格を外した「カナ商号」で並べるのが実務の定石です。求人サイトや企業データベースの多くも、内部では法人格を外した名前で整列しています。

3. 略記のときの位置。 「(株)◯◯」と「◯◯(株)」は、それぞれ前株・後株の略記です。請求書や契約書で相手の商号を略記するとき、前後を入れ替えると別の商号になります。厳密には正式商号を書くのが原則で、略記するなら位置まで正確に。うちの会社ページでは正式な商号をそのまま載せているので、確認に使ってください。

前株と後株、どちらを選ぶべきか

これから会社を作る人、商号変更を考えている人向けに、データから言えることを整理します。

私自身の感覚では、後株の会社名はやや重厚で、前株は軽快な印象があります。それはこの記事で見てきたとおり、後株が「古い会社・製造業・大企業」に多く、前株が「新しい会社・サービス業・小さな会社」に多いという実態を、私たちが無意識に学習しているからだと思います。

よくある質問

前株と後株で、信用力や格に違いはありますか?

ありません。会社法6条2項は商号の中に「株式会社」の文字を入れることだけを求めていて、位置は決めていません。登記も税務も同じ扱いです。データ上は「後株の方が古い会社・大きい会社に多い」という偏りがありますが、それは個々の会社の信用とは別の話です。

「前株は大企業に多い」と聞きましたが本当ですか?

逆です。うちのデータベースでgBizINFOの従業員数がある株式会社111,614社を数えると、従業員1〜9人の会社は76.5%が前株、1,000人以上の会社は48.5%が前株でした。規模が大きいほど後株が増えます。大企業には設立の古い会社が多く、古い会社には後株が多いためです。

「後株は老舗」という見方は当たっていますか?

おおむね当たっています。設立年月日が分かる株式会社52,727社では、1949年以前に設立された会社の前株は35.5%、つまり3社に2社が後株でした。前株が多数派になったのは1970年代で、1990年代以降は7割前後で安定しています。

商号の途中に「株式会社」を入れることはできますか?

できます。実際に「農業生産法人株式会社◯◯」「◯◯株式会社△△店」のような商号が725社あります。会社法6条2項は「商号中に」株式会社の文字を用いることを求めているだけなので、途中でも要件を満たします。ただし検索で見つけにくくなるのは確かなので、実務上のメリットは薄いと思います。

前株か後株かを調べるには、何を見ればいいですか?

国税庁の法人番号公表サイトか、しょくばログの会社ページで、登記どおりの正式商号を確認してください。名刺・求人票・ウェブサイトの表記は略記や通称のことがあり、前後が正確とは限りません。法人番号で引けば表記ゆれの問題は消えます。

この記事の数字について

会社法6条(商号)、7条(会社と誤認させる名称等の使用の禁止)、8条(不正の目的による商号の使用の禁止)の条文は、e-Gov法令検索の会社法(平成十七年法律第八十六号)を2026年9月に確認したものです。

活動中の株式会社2,513,796社の前株・後株・中株・旧字体の件数、会社の種類別(有限会社・合資会社・合名会社・合同会社)の前後比率、都道府県別の前株比率は、しょくばログが国税庁法人番号公表サイトの公開データを取り込んだデータベースを2026年9月に集計した値です。「前」は商号が「株式会社」で始まるもの、「後」は「株式会社」で終わるもの、「中」はそれ以外で商号中に「株式会社」を含むものとして、機械的に分類しました。

設立年代別(52,727社)・従業員規模別(111,614社)・資本金10億円以上(2,929社)の前株比率は、同じデータベースに経済産業省gBizINFOから取り込んだ設立年月日・従業員数・資本金がある株式会社に限って集計したものです。gBizINFOに情報がある会社は全体の一部で、国の制度に関わった会社に偏っている可能性があります。

業種別(505,614社)の前株比率は、日本標準産業分類の大分類が付与できた活動中の株式会社に限った集計です。活動中の株式会社の約8割は業種が未分類のため、全社の比率とは異なる場合があります。

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古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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