✍ 古家あきら | 2026-09-20 更新
ごま油シェア4割の老舗・かどや製油がファンド傘下で非公開化へ — 創業地の小豆島に本店はなく、社名に「製油」を持つ現存154社の29%は合資会社
先に結論です。ごま油の国内シェア約40%を持つかどや製油(東証スタンダード・2612)は、2026年9月14日、投資ファンドのインテグラルが設立した買収会社によるTOB(株式公開買付け)に賛同し、応募を推奨すると発表しました。買付価格は1株2,514円、期間は9月15日〜10月30日、成立すれば上場廃止になります。 ただし、会社そのものが無くなるわけではありません。登記上は法人番号9010701002351の「かどや製油株式会社」が、東京都品川区北品川の本店のまま残ります。うちの会社データベースで見ると、創業地の小豆島にこの会社の本店はなく、社名に「製油」を持つ現存154社のうち45社(29.2%)は合資会社という、全国平均(1.7%)からかけ離れた古い法人形態の集まりでした。上場廃止のニュースを、登記の側から読み直します。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「上場廃止=会社が消える」と受け取る問い合わせを時々いただきます。株式市場から見れば確かに銘柄は消えます。しかし登記から見れば、非公開化は「株主が入れ替わっただけ」で、法人番号も本店も商号もそのままです。今回の案件は、創業168年の老舗が創業家を残したままファンド傘下に入るという、その典型例です。
取引の骨格 — 一次資料(公開買付けに関する意見表明)から
かどや製油が9月14日に東京証券取引所へ提出した「株式会社ITG-Gホールディングスによる当社株式に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」から、数字だけを抜きます。
出典:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120260914536265.pdf (かどや製油・2026年9月14日・適時開示)
| 項目 | 内容 | |---|---| | 公開買付者 | 株式会社ITG-Gホールディングス(2026年7月17日設立、資本金50万円、インテグラル株式会社が100%保有) | | 買付価格 | 普通株式1株につき2,514円 | | 買付期間 | 2026年9月15日〜10月30日(30営業日) | | 買付予定数の下限 | 13,847,100株(所有割合66.65%)。上限は設定なし | | プレミアム | 公表前営業日(9月11日)終値2,384円に対し5.45%、過去6ヶ月平均1,713円に対し46.76% | | 大株主の扱い | 筆頭の三菱商事(26.88%・7,431,000株)と第2位の三井物産(21.92%・6,058,500株)は、TOBでなく、かどや製油自身の自己株式取得で買い取る前提で組み立て(三菱商事とは届出後に協議) | | 創業家 | 第3位の小澤物産(11.54%)・第4位の小澤商事(4.65%)は不応募。取引後も小澤氏の持分が2〜3割程度残る設計 | | 上場廃止 | TOB成立後、株式併合などのスクイーズアウト手続を経て上場廃止となる予定 |
日本経済新聞は買付総額を約580億円と報じています(出典:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14AKD0U6A910C2000000/ )。前日終値へのプレミアムが5.45%と小さいのは、6ヶ月前の1,713円から株価がすでに大きく上がっていたためで、半年平均で見ると46.76%です。
意見表明書には経緯も書かれています。会社が自ら非公開化を望んだのではなく、2025年9月8日に「ある事業会社(A社)」から買収に関心があるという口頭の打診があり、11月19日に法的拘束力のない意向表明書を受領したのがきっかけでした。その後、特別委員会を設けて複数の候補から選ぶプロセスを回し、2026年6月1日にインテグラルが1株2,500円を提示、最終的に2,514円で合意しています。つまり老舗が「売られた」のではなく、声がかかったのを機に売り先を自分で選んだ、という流れです。
168年の年表 — 創業は小豆島、登記上の本店は品川
同じ資料に、会社の歩みが整理されています。
- 安政5年(1858年):香川県小豆島で「加登屋製油所」を創業、ごま油の製造販売を開始
- 1957年5月:東日本の代理店だった小澤商店(現・小澤物産)と共同出資で「加登屋製油株式会社」を設立
- 1976年4月:「かどや製油株式会社」へ商号変更
- 1993年11月:日本証券業協会に店頭登録 → 2004年12月ジャスダック上場 → 2012年3月東証二部 → 2013年4月東証一部 → 2022年4月スタンダード市場へ移行
- 現在:国内ごま油市場で約40%、米国市場で約20%のシェア。ごま油事業の売上高は2026年3月期で31,401百万円。生産拠点は小豆島工場(香川)と袖ケ浦工場(千葉)、連結子会社カタギ食品の寝屋川工場(大阪)
ここで、うちの台帳(国税庁 法人番号公表サイト全件)を引きます。
| 法人番号 | 商号 | 本店所在地 | 登記の状態 | |---|---|---|---| | 9010701002351 | かどや製油株式会社 | 東京都品川区北品川5丁目1番18号 | 閉鎖なし | | 2120001147628 | カタギ食品株式会社 | 大阪府寝屋川市石津元町12番8号 | 閉鎖なし |
創業地は小豆島ですが、登記上の本店は東京都品川区です。 「〇〇の老舗」を本店所在地で探すと出てこないことがあるのは、こういう構造のためです。1957年に東日本の代理店と共同で株式会社化した経緯を知っていると、本店が東京にある理由も腑に落ちます。本店の住所と実際の拠点が違うケースの読み方は 会社の住所を調べる方法 に、商号が「加登屋製油」から変わっている件のたどり方は 会社の旧社名を調べる方法 にまとめています。
社名に「製油」を持つ現存154社 — 29%が合資会社という古さ
かどや製油のような「製油」を名乗る会社は、全国にどれだけあるのか。台帳で商号に「製油」を含み、登記記録が閉鎖されていない法人を数えると154社でした(閉鎖済みを含めると172社)。法人種別の内訳がこの業種の年齢を物語ります。
| 法人種別 | 件数 | 構成比 | 全国の現存法人での構成比 | |---|---|---|---| | 株式会社 | 61 | 39.6% | 50.0% | | 合資会社 | 45 | 29.2% | 1.7% | | 有限会社 | 26 | 16.9% | 28.4% | | 合名会社 | 15 | 9.7% | 0.4% | | その他 | 7 | 4.5% | — | | 合計 | 154 | 100% | — |
全国では現存法人の1.7%しかない合資会社が、「製油」社名では29.2%。合名会社も0.4%に対して9.7%です。合資・合名会社は明治〜昭和初期に家業を法人化するときによく使われた形で、油屋・醤油屋・酒蔵のような地場の製造業に多く残っています。「山形製油合資会社」「合資会社東北製油所」「合資会社多古製油所」といった商号が並ぶのは、その名残です。合資会社・合名会社の仕組みと無限責任の意味は 合資会社・合名会社とはどんな会社か に書きました。
都道府県別では東京都21社、大阪府16社、岐阜県10社、福岡県・愛知県各8社。岐阜が3位に入るのは、うちの台帳を見ていて少し意外でした。閉鎖済み18社の閉鎖事由は「清算の結了等」が10社で最多、次いで「合併による解散等」が5社です。
一方、かどや製油の創業地・小豆島(香川県小豆郡土庄町・小豆島町)に本店を置く現存法人は1,179件。うち商号に「醤油」を含む会社が17社あります(閉鎖済みを含めると22社)。島の主産業が登記の商号にそのまま出ている一方で、島発祥の最大手であるかどや製油の本店は島にない。データベースを引くと、こういうずれが可視化されます。
非公開化で消えるもの・消えないもの
上場廃止で「見えなくなる情報」の中身は、北陸最大手スーパー・アルビスのTOB の記事で有価証券報告書ベースに整理しました。ここでは今回の案件に即して、登記の側から3点だけ足します。
1. 法人番号・商号・本店は変わらない。 株主が三菱商事・三井物産・一般株主からファンドと創業家に入れ替わるだけで、登記事項に「上場廃止」という項目はありません。うちの台帳でも、かどや製油の閉鎖日は空欄のままです。取引先が請求書に書く法人番号(T9010701002351)もそのままです。 2. 創業家が残る非公開化は、MBOとも親会社によるTOBとも違う。 MBOから5年で再上場したオリバー は経営陣が買い手、アルビス は事業会社が買い手でした。今回はファンドが買い手で、創業家の持分を2〜3割残す設計です。ファンドはいずれ売却して回収するのが仕事なので、数年後に再上場か他社への売却か、どちらかの「次の動き」が来る前提で見るのが自然です。 3. 非上場になると、株主構成は登記からは読めない。 上場中は大量保有報告や有報で三菱商事26.88%という数字まで公開されていましたが、非公開化後はそうした開示義務が消えます。非上場会社の株主を外からどこまで調べられるかは 非上場会社の株主は調べられるのか に書いたとおり、限界があります。上場しているかどうか自体の確認方法は 会社が上場しているか確認する方法 を参照してください。
中小企業の側で読み替えると
かどや製油の売上規模(ごま油事業で314億円)は中小企業の話ではありませんが、構造は小さな会社にも当てはまります。
- 老舗ほど「創業地」と「本店」がずれる。 販路が東京にできた時点で本店を移すのは、油屋に限らず食品・繊維・工具の老舗に共通の動きです。取引先を登記で確認するとき、本店所在地だけで「地元の会社ではない」と判断しないほうがいい。
- 合資・合名会社は「古い」のであって「危ない」のではない。 製油業のように業歴の長い業種では、法人形態が明治・昭和のまま残っているだけです。形態で信用を測るなら、法人の種類一覧 にあるように、まず種別ごとの意味を押さえてからです。
- 声がかかったら、選ぶ側に回れる。 意見表明書によれば、この取引は2025年9月の他社からの打診が起点で、会社は特別委員会を作って複数の候補を比べました。事業承継や売却の話は「来てから慌てて決める」より「来たときに比べられる体制を持っておく」ほうが、条件が良くなります。
FAQ
かどや製油の株は、TOBに応募しないとどうなりますか
意見表明書によれば、TOB成立後に株式併合などのスクイーズアウト手続が予定されており、応募しなかった一般株主も最終的にはTOB価格を基準とした金銭を受け取る形で株主でなくなる見込みです。個別の判断は証券会社や専門家に確認してください。
上場廃止になると、しょくばログの会社ページから消えますか
消えません。うちの台帳は国税庁の法人番号公表サイトが元データで、上場・非上場は登録の条件ではありません。閉鎖日が入るのは登記記録が閉鎖されたときだけで、非公開化では閉鎖されません。
「製油」を名乗る会社に合資会社が多いのはなぜですか
合資会社・合名会社は明治〜昭和初期に家業を法人化する際によく使われ、油・醤油・酒などの地場製造業にそのまま残っているためです。全国の現存法人での合資会社比率は1.7%ですが、商号に「製油」を含む154社では29.2%でした。古いことと危ないことは別で、形態だけで信用を判断しないほうがいいです。
かどや製油の本店はなぜ小豆島でなく東京なのですか
意見表明書によれば、1957年に東日本地区の代理店だった小澤商店と共同出資で株式会社化した経緯があります。法人番号公表サイトの現在の本店所在地は東京都品川区北品川5丁目1番18号で、小豆島には小豆島工場が置かれています。
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うちの会社データベースは、上場しているかどうかに関係なく、登記が残っている会社をすべて載せています。かどや製油のように株式市場から姿を消しても、法人番号で引けば本店・商号・閉鎖の有無はそのまま見えます。「上場廃止」のニュースを見たときは、株価の話とは別に、登記の側で何が変わり何が変わらないかを一度確認してみてください。