✍ 古家あきら | 2026-09-13 更新
ゴルフ場の民事再生で「プレー権は守られる」のに、預託金は債権になる — 負債56億円の三重と、18年休眠のまま155億円で破産した東京、社名に「ゴルフ」を持つ法人4,199件の閉鎖率まで数えた
東京商工リサーチ(TSR)と日本経済新聞が2026年9月1日に報じた内容によると、三重県いなべ市でゴルフ場を運営する(株)六石ゴルフ倶楽部が9月1日、東京地裁に民事再生法の適用を申請しました。負債総額は約56億円、債権者は約1,900名。スポンサーには東証プライム上場のリソルホールディングス(株)がつき、ゴルフ場の営業は続き、会員のプレー権は保護されるとしています。
先に結論を書きます。ゴルフ場の倒産で「会員」が債権者に並ぶのは、会員権の多くが「預託金」という、いずれ返してもらう前提のお金だからです。 民事再生では、そのお金は他の債権と同じく再生債権として扱われ、一方でコースで遊ぶ権利(プレー権)はスポンサーのもとで残る。同じ「会員」でも、財布の中身と権利の中身が別々に処理される。この分け方が分かると、今回のニュースも、8月に破産した東京グリーン(株)のニュースも、同じ物差しで読めます。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「勤め先のゴルフ場が民事再生と聞いたが、明日から仕事はあるのか」「取引先のゴルフ場の会社が、登記上はまだあるのに営業していない」という相談が来ます。2社の記録を実際に引きながら、順に書きます。
公表された事実(出典つき)
TSRの速報と、日本経済新聞の報道の要点です。
- (株)六石ゴルフ倶楽部(三重県いなべ市北勢町阿下喜3290)は1958年7月設立、資本金9,000万円。丘陵型のゴルフ場「六石ゴルフ倶楽部」を1978年に営業開始
- 近年は年間売上高約5億円で推移し、2026年3月期の入場者数は5万1,253名
- 経営悪化の主因は「預託金償還問題」に加え、「元支配人の不正事件に起因する修正申告」による「租税負担等から資金繰りが悪化」
- 2026年9月1日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。負債約56億円、債権者約1,900名
- スポンサーはリソルホールディングス(株)。申請後もゴルフ場の営業は継続し、会員のプレー権は保護される。2027年1月中旬頃、再生計画で既存株式を100%減資し、スポンサーが新株を引き受ける予定
出典:東京商工リサーチ「(株)六石ゴルフ倶楽部(三重)が民事再生法の適用を申請」(2026年9月1日)
出典:日本経済新聞「六石ゴルフ倶楽部、民事再生法を申請 負債56億円」(2026年9月1日)
もう1社。TSRが8月26日に公表した速報によると、東京都千代田区麹町の東京グリーン(株)は8月19日、東京地裁から破産開始決定を受けました。1981年6月設立、1989年と1990年にゴルフ場を1カ所ずつ開業し、1990年9月期は売上高16億9,239万円に対し1億590万円の赤字。バブル崩壊後は設備投資や預託金の償還負担が重く、2008年に会社分割で両ゴルフ場を譲渡。以降は「事業を大幅に縮小し、休眠状態が続いていた」とあります。負債は約155億円、債権者は1名です。
出典:東京商工リサーチ「元ゴルフ場運営の東京グリーン(株)(東京)が破産」(2026年8月26日)
「預託金」とは何か — 会員が債権者になる仕組み
日本のゴルフ場の会員権は、大きく「株主会員制」と「預託金会員制」に分かれます。預託金会員制では、入会時に会員がゴルフ場の会社にまとまったお金を預け、一定の据置期間が過ぎたら返してもらえる約束になっています。会社から見れば、それは売上ではなく「いつか返す負債」です。
1980年代から90年代にかけて、この仕組みで多くのゴルフ場がつくられました。据置期間が終わって返還請求が集中したとき、会社に返すお金がなければ資金繰りが詰まる。これが「預託金償還問題」で、六石ゴルフ倶楽部のTSR速報にも、東京グリーンの速報にも同じ言葉が出てきます。
倒産手続に入ると、預託金の返還請求権はほかの取引先の売掛金と同じ「債権」として並びます。六石ゴルフ倶楽部の債権者約1,900名という数字は、その多くが会員だと読むのが自然です(内訳は公表されていません)。民事再生では債権は再生計画に従って一部が支払われ、残りは免除されるのが通常で、預託金が満額で戻る前提では考えないほうがいい。一方でプレー権は、スポンサーが引き継ぐゴルフ場で残る。財布の話と、遊ぶ権利の話は、こうして別々に扱われます。
「営業しながらの民事再生」で法人番号や登記がどう動くかは、ギフト専門店の民事再生を読んだ記事で書いた通りで、ゴルフ場でも同じです。申請しても法人番号は変わらず、登記も閉じません。 100%減資と新株引き受けが済んでも、会社の番号は同じまま、株主だけが入れ替わります。
しょくばログの記録で、2社はどう見えるか
法人番号で引きました。
- (株)六石ゴルフ倶楽部(法人番号 8190001012159):株式会社、三重県いなべ市北勢町阿下喜3290番地。登記の閉鎖なし。gBizINFO由来の記録では資本金9,000万円、代表者は代表取締役社長。従業員数の欄は「10」とありますが、入場者5万人規模のコースをその人数で回すとは考えにくく、届出時点の値か一部の数字だと思って読むべきものです
- 東京グリーン(株)(法人番号 2010001034102):株式会社、東京都千代田区麹町4丁目3番29号。登記の閉鎖なし。gBizINFOには社名以外の記録なし
つまり、破産開始決定から3週間以上たった東京グリーンも、記録の上では「現存」です。 破産手続が終わって登記が閉じるまで、この欄は空のままです。倒産直後の会社を法人番号で調べても「閉鎖」が出ないのは、そういう理屈です。手順は会社が解散・休眠しているか調べる方法に書いています。
もう一つ、東京グリーンの記録には「2008年から休眠」を示すものが何もありません。休眠は登記に出ません。 役員変更などの登記さえ続けていれば、事業を止めて18年たった会社も、登記上は動いている会社と区別がつかない。売上のない会社が155億円の負債を抱えたまま記録上「現存」で居続けられたのは、この仕組みのせいです。
麹町の同じ番地に「ゴルフ」の会社が並んでいた
東京グリーンの本店「千代田区麹町4丁目3番29号」を本店とする法人を並べると、社名に「ゴルフ」「グリーン」「カレドニアン」「東城」「富里」のいずれかを含む法人が9件ありました。東京グリーン(株)のほか、東京グリーン富里カレドニアン(株)、(株)東京グリーンサービス、平成ゴルフ(株)、東城ゴルフ(株)、(株)愛和ゴルフ東城、一般社団法人カレドニアンクラブ、一般社団法人富里クラブなどです。いずれも登記の閉鎖はありません。
社名からは「同じグループらしい」と想像がつきます。ただ、どの会社がどのゴルフ場を引き継いだのか、どこに資本関係があるのかは、登記の記録からは読めません。 TSRの速報にある「会社分割で両ゴルフ場を譲渡」の相手が、この中のどれかも分かりません。同じ番地に法人が並んでいても関連会社が外から見えない、という話はカー用品卸の連鎖破産を読んだ記事で書いたばかりですが、今回も同じ壁に当たりました。資本関係の調べ方は親会社・グループ会社の調べ方にまとめています。
社名に「ゴルフ」「カントリークラブ」を持つ法人4,199件の閉鎖率
ここからは、しょくばログにしか出せない数字です。社名に「ゴルフ」「カントリークラブ」「カンツリー」「カントリー倶楽部」のいずれかを含む法人を全国で数えました。ゴルフ場のほかに練習場・用品店・会員権業者・パークゴルフ協会も混ざり、逆に「〇〇倶楽部」だけの社名は拾えない、社名一致の数え方です。
- 全国 4,199件、うち閉鎖 889件(21.2%)。全国の法人5,791,529件の閉鎖率は13.2%なので、8ポイント高い
- 閉鎖の事由:清算結了375件(42.2%)、合併129件(14.5%)、登記官による閉鎖等384件(43.2%)。全国の閉鎖では登記官による閉鎖等は27.5%なので、ゴルフ関連は「きちんと清算せず、登記が止まって閉じられた」割合が目立って高い。東京グリーンのように休眠のまま放置される会社が多い業種だと読めます
- 法人種別:株式会社2,528件(閉鎖640件・25.3%)、有限会社1,212件(186件・15.3%)、合同会社81件(9件)。一般社団法人・公益社団法人などが224件(閉鎖25件)。株式会社の閉鎖率が有限会社より10ポイント高い
- 都道府県:東京都1,029件(閉鎖244件)、大阪府262件、神奈川県221件、千葉県215件、兵庫県191件、愛知県191件、北海道183件
- 三重県:54件、うち閉鎖14件(25.9%)。いなべ市には六石ゴルフ倶楽部のほか(株)涼仙ゴルフ倶楽部、(株)ナガシマゴルフなど社名にゴルフを持つ法人が4件。市全体では法人1,248件、閉鎖153件(12.3%)で全国平均並み
一季出版の集計によると、全国の営業中ゴルフ場は2025年4月中旬時点で2,110コース。ピークの2004年(2,356コース)から246コース・10.4%減り、2008年以降18年連続で減っています。都道府県別の1位は千葉県の155コースです。
出典:一季出版「全国営業中ゴルフ場数、昨年比11件減の2110コース」(2025年8月7日)
コースが最も多いのは千葉県なのに、社名にゴルフを持つ法人が最も多いのは東京都、というズレがあります。東京グリーンがそうだったように、コースは地方にあり、運営会社の本店は都心に置く形が珍しくないからです。「勤め先のゴルフ場の会社を調べたら本店が千代田区だった」は、それ自体は異常ではありません。逆に言うと、法人番号で引いた住所とコースの場所が違うことは前提で、コース名から会社名を確かめる作業が一段要ります。社名から法人番号を引く手順は会社名から法人番号を調べる方法の通りです。
応募者・取引先・会員は、どう動けばいいか
- 働いている人・応募する人:六石ゴルフ倶楽部のようなスポンサー付きの民事再生は、コースの営業が続くのが前提です。給与や退職金の未払いが出ていないか、雇用契約がスポンサーへどう引き継がれるかは、会社からの説明を書面でもらう。1958年設立・1978年開場という業歴は、老舗と新興の見分け方の物差しで言えば十分に古いが、業歴の長さは預託金の重さと表裏でもある
- 取引先:民事再生の申請日より前の売掛金は再生債権で、申請後の取引は共益債権として通常どおり支払われるのが原則です。どちらに当たるかは日付で決まるので、納品日と請求日を整理しておく
- 会員:預託金の返還請求権は再生債権として届け出る。プレー権はスポンサーのもとで残る予定だが、会員規約がどう引き継がれるかは再生計画を待つ。会員権業者の「名義書換停止」の案内は、この期間の目安になる
- 東京グリーンのような「元運営会社」との取引が残っている人:登記が現存でも、事業は2008年に別会社へ移っています。相手にすべき会社が別にある可能性を、倒産前の事業譲渡を見分ける記事の手順で確かめる
よくある質問
民事再生を申請したゴルフ場で、会員はもうプレーできないのですか
六石ゴルフ倶楽部のケースでは、TSRの速報に「申請後もゴルフ場の営業は継続しており、会員のプレー権は保護される」とあります。スポンサーが決まっている民事再生では営業を続けるのが普通です。ただし預託金の返還は別の話で、再生計画の内容次第です。
預託金は全額戻ってきますか
一般に民事再生では、届け出た債権のうち再生計画で定めた割合が支払われ、残りは免除されます。預託金も同じ扱いです。割合は計画が認可されるまで分からないので、六石ゴルフ倶楽部の場合は2027年1月中旬頃とされる再生計画の提出を待つことになります。
破産した東京グリーンは、なぜ法人番号で調べると「現存」なのですか
破産開始決定が出ても、手続が終わって登記が閉鎖されるまで、国税庁の法人番号公表サイトにもしょくばログにも「閉鎖」の日付は付きません。倒産の有無は登記ではなく、TSRや帝国データバンクの速報、裁判所の公告で確認します。
ゴルフ場の会社は、ほかの業種より危ないのですか
社名に「ゴルフ」等を持つ法人の閉鎖率21.2%は全国平均の13.2%より高く、しかも登記官による閉鎖の割合が高い。ただし、営業中のコースは2,110もあり、大半は普通に営業しています。個別の会社を見るときは、預託金会員制かどうか、据置期間がいつ終わるかのほうが、業種全体の数字より効きます。
まとめ
- 六石ゴルフ倶楽部は9月1日に民事再生を申請。負債約56億円・債権者約1,900名、スポンサー付きで営業は継続
- 会員が債権者に並ぶのは、預託金が「いずれ返す負債」だから。民事再生では預託金は再生債権、プレー権はスポンサーのもとで残る
- 東京グリーンは2008年から休眠のまま負債155億円で破産。休眠は登記に出ず、記録上はいまも「現存」
- 社名に「ゴルフ」等を持つ法人は全国4,199件、閉鎖率21.2%。登記官による閉鎖の割合が43.2%と高く、休眠放置が多い業種と読める
- コースの場所と会社の本店は違うのが前提。コース名から会社名、会社名から法人番号、の順で確かめる
数字は2026年9月13日時点のしょくばログのデータベース(国税庁法人番号公表情報・gBizINFOをもとに構築)と、本文中に示した各出典によります。