✍ 古家あきら | 2026-09-28 更新
岡山市の広告代理店「ゲインクロス」が破産。売上の減り方は2割、それでも資金が先に尽きた。しょくばログDBで見る社名に「広告」を持つ法人1,844社
先に結論です。広告代理店は、テレビ局や新聞社に広告枠の代金を払ってから、広告主から代金を受け取る形になりやすい商売です。売上が少し減っただけでも、先に払うお金を借り入れでまかなっていると、利益より先に手元のお金が足りなくなります。 岡山市南区のゲインクロス株式会社は、2026年3月26日に事業を止め、9月7日に岡山地方裁判所から破産手続き開始決定を受けました。負債は約1億4,230万円です。売上高の減り方は4年で約2割でした。
出典:【破産申請へ】岡山市南区の広告代理業「ゲインクロス」破産申請へ 負債約1億3700万円【岡山】(OHK岡山放送、2026年3月30日)
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、倒産の報道が出たあとに、その会社の名前で検索する人が増えます。広告を頼んでいた会社、制作を請け負っていた外注先、そこで働いていた人。ここでは、報道で確認できる事実と、国内の広告費の統計、しょくばログの台帳から数えられる数字だけを並べます。個別の会社の良し悪しを言う記事ではありません。
何が起きたのか(報道で確認できる事実)
従業員数や取引先の名前は報道に書かれていないため、ここでも書きません。
- 会社:ゲインクロス株式会社(岡山市南区西高崎)
- 設立:2015年11月、資本金300万円
- 事業:地元の住宅メーカーなどを主な得意先に、テレビCM、新聞の折込広告、チラシ、イベント、パンフレット、広報誌などを制作
- 売上高:2019年10月期 約2億2,800万円 → 2023年10月期 約1億8,100万円
- 2026年3月26日に事業を停止(3月30日の報道時点で負債約1億3,700万円、東京商工リサーチ岡山支店調べ)
- 2026年9月7日に岡山地裁から破産手続き開始決定(負債約1億4,230万円、帝国データバンク調べ)
苦しくなった理由として、報道は次の点を挙げています。
- インターネット広告が主流になるなかで対応が遅れ、主力の得意先のニーズを捉えきれなかった
- テレビCMなどの制作費を外に出す比率が高かった
- 媒体費などを先に払うための借入金の負担が膨らんだ
売上2割減で、なぜ資金が尽きるのか
広告代理店の売上には、テレビ局や新聞社に払う広告枠の代金や、外注先に払う制作費がそのまま含まれることが多くあります。売上が2億円あっても、手元に残る取り分はその一部です。
この形では、次のことが重なりやすくなります。
- お金の出入りの時期がずれる:媒体費や外注費を先に払い、広告主からの入金は後になる。その間を借り入れでつなぐ
- 売上が減っても、借入金はすぐには減らない:取り分が薄いぶん、売上が少し減るだけで返済の原資が足りなくなる
- 外注比率が高いと、値下げで吸収できる幅が小さい:自社で持つ作業が少ないほど、原価を削る余地も少ない
ゲインクロスの売上は4年で約2割減でした。減り方としては大きくありません。それでも資金繰りが詰まったのは、報道にある「外注比率の高さ」と「先払いのための借入」が重なっていたためと読めます。原価の上昇や値下げ圧力をどこまで価格に乗せられるかは、価格転嫁率と「値上げできない会社」を整理した記事で書いています。
広告費の半分はインターネットへ
背景として、国内の広告費の流れを見ておきます。電通の「2025年 日本の広告費」によると、2025年の総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)で、4年連続で過去最高でした。
- インターネット広告費:4兆459億円(前年比110.8%)。総広告費に占める割合は50.2%で、初めて半分を超えた
- マスコミ四媒体(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ):2兆2,980億円(前年比98.4%)
- うちテレビメディア:1兆7,556億円(前年比99.7%)
- うち新聞:3,136億円(前年比91.8%)
- 折込広告:2,354億円(前年比96.4%)
広告費の総額は増えています。減っているのは新聞と折込で、増えているのはインターネットです。ゲインクロスが得意としていたテレビCM、新聞の折込、チラシは、全体が伸びるなかで横ばいか減っている分野でした。広告主の予算そのものは消えていなくても、使い先が変わると、従来の媒体を中心にしてきた代理店の取り分は細ります。
しょくばログの台帳で見えること
破産決定が出ても、台帳はまだ「閉鎖」ではない
しょくばログの台帳(国税庁の法人番号公表データが元)で「ゲインクロス」を含む法人を探すと、岡山市南区西高崎に本店があるゲインクロス株式会社の1社だけでした。2026年9月28日時点で、登記は閉鎖になっていません。
破産手続きが始まっても、登記が閉じるのは手続きが終わってからです。事業を止めてから半年たった今も、台帳上は「ある会社」として表示されます。破産決定が出た4社を国税庁のサイトで引いた記事でも、同じことが起きていました。取引先が今どうなっているかの確かめ方は、会社が実在するか・倒産していないか確認する方法の記事にまとめています。
社名に「広告」を含む法人1,844社、閉鎖率は18.9%
社名に「広告」を含む法人を全国で数えると1,844社あり、そのうち登記が閉じているのは348社(18.9%)でした。台帳全体の閉鎖率は13.3%です。閉鎖率は、台帳に載っている法人のうち、すでに登記が閉じている法人の割合です(いつ閉じたかは問いません)。
- 株式会社:1,026社のうち閉鎖213社(20.8%)
- 有限会社:583社のうち閉鎖105社(18.0%)
- 合同会社:49社のうち閉鎖3社(6.1%)
岡山県では、社名に「広告」を含む法人は22社、閉鎖は4社(18.2%)でした。都道府県別の数では全国20位です。
なお、ゲインクロスのように社名に「広告」が入っていない広告会社も多くあります。ここでの数字は「社名から広告業と読み取れる会社」に限った断面です。
「広告」より「ウェブ」を名乗る会社のほうが多い
比べるために、社名に「ウェブ」「WEB」などを含む法人を数えると2,077社、閉鎖率は14.0%でした。まだ登記が閉じていない会社の数で見ると、「広告」を名乗る会社が1,496社、「ウェブ」を名乗る会社が1,787社です。
会社の種類の構成にも差があります。
- 社名に「広告」:合同会社は2.7%、有限会社は31.6%
- 社名に「ウェブ」など:合同会社は13.0%、有限会社は12.8%
有限会社は2006年5月の会社法施行以降は新しく作れず、合同会社はその時に始まった形です。社名に「広告」を持つ会社は古くからある会社が多く、新しく作られる会社は「ウェブ」を名乗ることが多い、という傾向が読み取れます。会社の種類の違いは、持分会社(合同・合資・合名)とは何かを整理した記事で書いています。
広告会社と取引する人が確かめておきたいこと
一般論として、広告や制作を外に頼むときに見ておきたい点を挙げます。
- 支払いの条件:媒体費の前払いを求められる場合、いつ、いくら、何に対して払うのかを書面で確かめる
- 媒体への支払いが済んでいるか:高額な出稿では、媒体社への支払いが終わっているかを確認できると安心です
- 制作物の権利:途中で取引が止まっても使えるよう、完成データの受け渡しと権利の帰属を契約に書いておく
- 会社の基本情報:本店所在地や社名の変更履歴は、国税庁の法人番号公表サイトで確かめられる。事業内容の調べ方は会社の事業内容を調べる方法の記事にあります
よくある質問
ゲインクロスという名前の会社と取引があります。今回の会社ですか?
報道の会社は岡山市南区西高崎に本店があるゲインクロス株式会社です。しょくばログの台帳では、社名に「ゲインクロス」を含む法人はこの1社だけでした。それでも、請求書や契約書に書かれた所在地か、13桁の法人番号で照合するのが確実です。調べ方は法人番号の調べ方の記事にあります。
広告を頼んでいた会社が破産しました。払ったお金や制作物はどうなりますか?
破産手続きが始まると、会社への請求は裁判所が選ぶ破産管財人を通じて行うことになります。前払いした金額と、納品済みのもの・未納品のものを契約書と照らして整理しておいてください。個別の判断は弁護士に相談してください。
社名に「広告」が入った会社は危ないということですか?
そうとは言えません。閉鎖率は登記が閉じた会社の割合で、個々の会社の経営状態を示すものではありません。古くからある会社が多い業種は、長い年月のなかで閉じた会社も積み上がるため、閉鎖率は高めに出ます。
しょくばログで「閉鎖」と表示されるのはいつですか?
国税庁の法人番号公表データに登記の閉鎖が反映されたあとです。破産の場合、手続きが終わって登記が閉じるまでには、事業停止から数か月から1年以上かかることがあります。
まとめ
- 岡山市南区のゲインクロス株式会社が2026年3月26日に事業を止め、9月7日に岡山地裁から破産手続き開始決定を受けた(負債約1億4,230万円)
- 売上高は2019年10月期の約2億2,800万円から2023年10月期の約1億8,100万円へ、減少は約2割
- 報道が挙げた理由は、インターネット広告への対応の遅れ、制作の外注比率の高さ、媒体費の先払いに伴う借入の負担
- 2025年の国内広告費は8兆623億円で、インターネットが50.2%と初めて半分を超えた。新聞と折込は前年より減った
- しょくばログの台帳では、社名に「広告」を含む法人1,844社のうち閉鎖は18.9%(台帳全体は13.3%)。ゲインクロスは2026年9月28日時点でまだ閉鎖になっていない
売上の減り方が小さくても、お金を先に払って後で受け取る商売では、資金が先に尽きることがあります。広告や制作を頼むときは、実績や提案の中身だけでなく、支払いの時期と制作物の受け渡しの条件をあわせて確かめてください。