✍ 古家あきら | 2026-09-07 更新
フィットネスクラブの倒産が過去最多ペース — 潰れているジムは、会社データベースに載っていない
今日(2026年9月7日)、東京商工リサーチが「フィットネスクラブの倒産が過去最多を更新へ」と公表しました。2026年1-8月で26件、前年同期の2.6倍です。
先に結論を書きます。倒産した26件のうち23件(88.4%)は従業員5人未満。つまり潰れているのは大手チェーンではなく、街の小さなジムです。そして小さなジムほど、店の名前と会社の名前が違います。 「ゴールドジム」も「chocoZAP」も、その名前の法人は日本に1件も存在しません。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、この「店名で引いても会社が出てこない」が一番の壁になります。今日は公表データを読んだうえで、うちの手元にある579万件の法人記録から「ジムを名乗る法人」を全部数え、それが業界の実態とどれだけズレているかを確かめました。 結果は、正直こちらの予想とも違いました。
今日公表された数字(出典つき)
東京商工リサーチの集計は次のとおりです。
- 2026年1-8月のフィットネスクラブ倒産:26件(前年同期比160.0%増=前年同期の2.6倍)
- これまでの過去最多は2023年の年間27件。このペースなら年間で更新し、40件台も視野
- 資本金別:1千万円未満が24件(構成比92.3%)。うち1百万円以上5百万円未満が11件(同42.3%)
- 従業員数別:5人未満が23件(構成比88.4%)、5人以上10人未満が2件(同7.6%)
- 負債額別:1千万円以上5千万円未満が19件(構成比73.0%)、1億円以上5億円未満が4件、5億円以上10億円未満が1件
- 原因別:販売不振19件(構成比73.0%)、既往のしわ寄せ3件(同11.5%)
記事は背景として、駅近・安価・着替え不要・24時間営業といった業態が乱立していること、RIZAPの『chocoZAP』のような省スペースで低価格帯のジムが台頭していること、パーソナルトレーニングジムでは入会金無料などのサービスコストが上昇する一方で会員定着率が課題になっていることを挙げています。
出典:東京商工リサーチ「『フィットネスクラブ』の倒産が過去最多を更新へ 1-8月は26件、市場拡大もレッドオーシャンの兆し」(2026年9月7日)
「26件」は多いのか、少ないのか
年間30件前後という数字だけ見ると、飲食業(8月単月で80件)に比べてずいぶん小さく見えます。実際、母数が違うので件数の直接比較には意味がありません。
意味があるのは中身の偏りのほうです。資本金1千万円未満が92.3%、従業員5人未満が88.4%。これは「フィットネス業界が傾いている」という話ではなく、「小さく始めた店が、小さいまま行き詰まっている」という話です。市場が伸びているかどうかと、その1社が持ちこたえられるかは別の質問だという点は、伸びている業界を選んでも安全ではないで書いたペット業界とまったく同じ構図でした。
では、その「小さいジム」は会社としてどこにいるのか。ここからはうちのデータで確かめます。
しょくばログのデータで数えた:ジムを名乗る法人は全国2,236件
手元にあるのは、国税庁の法人番号公表データをもとにした5,791,529件の法人記録です。ここから、社名に「フィットネス」「スポーツクラブ」「ヨガ(ヨーガ)」「ピラティス」およびローマ字表記(Fitness/Gym/Yoga/Pilates)を含む法人を抜き出しました。
結果は2,236件。全法人の0.04%です。
内訳は次のとおりでした(カッコ内は登記が閉鎖されている割合)。
- スポーツクラブ:1,347件(9.9%)
- 英字表記(Fitness/Gym/Yoga/Pilates):342件(7.3%)
- フィットネス:319件(14.7%)
- ヨガ・ヨーガ:201件(15.9%)
- ピラティス:27件(11.1%)
合計2,236件のうち閉鎖は240件、10.7%。 全法人の閉鎖率13.2%(5,791,529件中762,832件)より、むしろ低い水準でした。
なお、この数え方は社名の文字列一致なので限界があります。「Gym」では「Gymnex」のような無関係な社名も拾いますし、逆に社名にジムらしい語を入れていない運営会社は全部こぼれます。そのこぼれ方こそが、この記事の本題です。
6割は「会社」ですらなかった
数えていて予想外だったのは、法人の種類の内訳です。
- その他の設立登記法人(NPO法人・一般社団法人など):1,320件(59.0%)
- 株式会社:584件(26.1%)
- 有限会社:142件(6.4%)
- 合同会社:121件(5.4%)
全法人での比率は、株式会社50.4%、その他の設立登記法人10.1%です。ジムを名乗る法人だけ、非営利型の法人が6倍近い密度で入っている。
理由は「スポーツクラブ」の中身を見ると分かります。1,347件のうち1,073件(79.7%)がその他の設立登記法人で、実体は「特定非営利活動法人◯◯スポーツクラブ」「一般社団法人◯◯スポーツクラブ」——地域の総合型スポーツクラブです。民間のジムを探しているつもりで社名を検索すると、地域クラブの登記がどっと出てくる。これがうちのデータの実際の顔でした。
「スポーツクラブ」を除いた民間ジム寄りの889件(フィットネス/ヨガ/ピラティス/英字表記)で数え直すと、閉鎖は107件で12.0%。ようやく全体平均に近づきますが、それでも13.2%は超えません。法人の種類の見分け方は法人の種類一覧にまとめています。
閉鎖率が低いことは、安全を意味しない
ここで「じゃあジム業界は安全なのか」と読むと、間違えます。
株式会社に絞ると、ジム系584件の閉鎖率は11.1%。全法人の株式会社2,920,971件の閉鎖率は13.9%です。倒産が過去最多ペースの業界なのに、登記の閉鎖率は平均より低い。
この矛盾の答えは単純で、倒産している側が、この2,236件にほとんど入っていないからです。従業員5人未満のパーソナルジムは、①そもそも法人化していない個人事業か、②法人化していても社名にジムらしい語を入れていないか、のどちらかに寄ります。統計に映らない終わり方については倒産統計に載らない会社の終わり方で詳しく書きました。
業界の危険度は、その業界名を冠した法人の閉鎖率には出ません。 これは今回、自分のデータで数えてみて初めてはっきりした感触です。
店の名前では、会社にたどり着けない
実際にうちのデータベースで、よく知られたジムのブランド名を検索してみました。
- 「ゴールドジム」 → 該当法人0件。運営は株式会社THINKフィットネス(東京都江東区)です。公式サイトのサイトポリシーに、同社が運営・管理する旨が明記されています(出典:ゴールドジム公式サイト サイトポリシー)
- 「チョコザップ」「chocoZAP」 → 該当法人0件。chocoZAP公式サイトの会社概要ページ(chocozap.jp/company)にアクセスするとRIZAP株式会社の会社概要ページへ転送されます
- 「エニタイム」 → 出てくるのはコンサル会社や別業種の同名企業ばかりで、フィットネス事業とは無関係でした
一方で、株式会社ティップネスや株式会社カーブスジャパンのように、ブランド名と社名が一致している例もあります。一致するかどうかは会社ごとにバラバラで、規則性はありません。 だから「店名で検索して出てこない=怪しい」ではないし、「出てくる=安心」でもない。運営会社は、必ず店側の掲示から辿る必要があります。
運営会社を調べる4ステップ
通っているジム、あるいは応募しようとしているジムの「会社」を確かめる手順です。
① 特定商取引法に基づく表記/会員規約を見る。 公式サイトのフッターにある「特定商取引法に基づく表記」「利用規約」「会員規約」には、事業者名(法人名)と所在地が書かれています。ここが最短ルートです。店頭掲示や入会申込書の裏面にも同じ情報があります。
② 引き落としの請求元名義を見る。 すでに会員なら、クレジットカードや口座引き落としの明細に出る名義が運営会社であることが多いです。店名と違う名前が出ていたら、それが法人名の手がかりになります。
③ 法人番号で実在と登記の状態を確認する。 法人名が分かったら国税庁の法人番号公表サイトかしょくばログで引きます。手順は法人番号の調べ方に、実在・閉鎖の確認方法は会社が実在するか確認する方法に書きました。
④ 法人が見つからないなら、個人事業を前提に判断する。 探しても法人が出てこない場合、それは隠しているのではなく、単に個人事業である可能性が高い。個人事業には法人番号も登記もなく、外部から会社の状態を確認する手段がほぼ存在しません。見分け方は個人事業主か法人かを見分ける方法にまとめています。
なお、契約前に解約時の連絡先や精算方法、自動更新の有無を確認しておくこと、事業者と連絡が取れない場合は複数の連絡手段で問い合わせ、不安なら早めに消費生活センターへ相談することが、国民生活センターの発表資料で呼びかけられています(出典:国民生活センター「スポーツジム等の契約トラブルにあわないために」(2024年1月24日))。
求人を見る側から見ると
トレーナー職の求人でも、事情は同じです。求人票に出ている「店名」と、雇用契約を結ぶ「会社」は別のことがあります。
見るべきは3点です。募集主体の法人名が求人票に書かれているか(書かれていない求人は、まずそこを聞く)。その法人が登記上どうなっているか(解散・休眠の判別は会社が解散・休眠しているか調べる方法へ)。そして同じ職種の募集が短期間に何度も出ていないか。決算が見えない小規模事業者では、求人の出方が数少ない外部シグナルになります。
よくある質問
Q. フィットネス業界は今、避けたほうがいい業界ですか。 いいえ、業界単位で避ける判断はおすすめしません。倒産26件の88.4%は従業員5人未満で、リスクは業界よりも規模と資本に偏っています。同じ業界の中に、大手チェーンと従業員2人のパーソナルジムが混在しています。
Q. 通っているジムが倒産したら、前払いした会費や回数券はどうなりますか。 法的な扱いは契約内容と手続き(破産・民事再生など)によって変わるため、ここで一律には言えません。国民生活センターは契約前に解約時の精算方法を確認しておくこと、連絡が取れないときは早めに消費生活センター(消費者ホットライン188)へ相談することを案内しています。
Q. しょくばログでジムを探せますか。 社名で登録されている法人なら引けます。ただし本文のとおり、ブランド名では引けないことが多いです。まず公式サイトの規約や特商法表記で運営会社名を確認し、その名前で検索してください。
Q. 「登記が閉鎖されている」=倒産ですか。 違います。閉鎖には解散・合併・清算結了など複数の理由が含まれ、倒産とイコールではありません。本記事の閉鎖率も「倒産率」ではなく、登記が閉じられた法人の割合です。
Q. 社名にジムらしい語が入っていない会社は、隠しているのですか。 いいえ。持株会社や親会社の名前で登記している、創業者名や地名で登記している、複数業態を運営しているなど、理由はさまざまです。ブランド名と社名が違うこと自体は、まったく普通のことです。
まとめ
- 東京商工リサーチによると、2026年1-8月のフィットネスクラブ倒産は26件で、年間で過去最多(2023年の27件)を更新するペース。従業員5人未満が88.4%、資本金1千万円未満が92.3%
- しょくばログの579万件で数えると、ジムを名乗る法人は2,236件(全体の0.04%)しかなく、59.0%はNPO法人・一般社団法人など。株式会社は26.1%にとどまる
- その2,236件の閉鎖率は10.7%で、全法人の13.2%より低い。倒産している小規模ジムは、この母集団にほとんど入っていない
- だから確認は業界統計ではなく、特商法表記→請求元名義→法人番号の順で、その1社を辿るしかない
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