✍ 古家あきら | 2026-09-16 更新

転勤があるか応募前に調べる方法 — 2024年から求人票に書かれる「就業場所の変更の範囲」の読み方

先に結論です。転勤があるかどうかは、2024年4月1日以降なら求人票と労働条件通知書の「就業場所の変更の範囲」欄で分かります。 労働基準法施行規則と職業安定法施行規則が改正され、会社は「雇い入れ直後の就業場所」だけでなく「将来変わりうる範囲」まで、募集の段階と契約の段階の両方で明示しなければならなくなりました。ここに「本社および全国の支社・営業所」と書いてあれば転勤あり、「本社のみ」「〇〇営業所のみ」と書いてあれば転勤なし、と読めます。

ただ、現実にはまだ多くの会社が採用ページにその言葉を書いていません。しょくばログという全国の会社データベースを運営していて、会社サイトの採用ページを32,838社分保存してあるのですが、そのテキストを数えたところ、「転勤」という語に触れている会社は2,918社、8.9%でした。改正の目玉である「変更の範囲」という語が出てくる会社は325社、1.0%です。つまり求人票の欄には書かれるようになったものの、会社サイトを見ただけでは10社に9社は転勤の有無が分からない、これがこの記事の出発点です。

この記事では、①2024年の改正で求人票のどこに何が書かれるようになったか、②会社サイト32,838社の集計で見えた「書く会社・書かない会社」の傾向、③書いていない会社で転勤の有無を確かめる手順、④「転勤なし」と書いてあっても確認すべきこと、の順に整理します。

2024年4月から「就業場所の変更の範囲」が求人票と契約書に載る

転勤の有無を外から調べるとき、いちばん確かなのは会社が自分で書いた文書です。2024年4月1日に施行された「労働基準法施行規則の一部を改正する省令」(令和5年3月30日厚生労働省令第39号)で、会社が労働契約を結ぶときに書面で明示すべき事項に、次の3つが追加されました。

同じ日に職業安定法施行規則も改正され、求人を出す段階(募集時)でも同じ3項目の明示が必要になりました。ハローワークの求人票にも「変更の範囲」の項目が設けられ、民間の求人サイトの募集要項でも「就業場所の変更の範囲」を載せる例が見られるようになりました。厚生労働省の案内では、「変更の範囲」とは雇い入れ直後だけでなく、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、契約期間中に変わりうる範囲のことだと説明されています。

「変更の範囲」欄の読み方 — 3パターンに分かれる

実際の求人票や労働条件通知書で見かける書き方は、おおむね3つに分かれます。

注意したいのは、この欄は「会社が転勤を命じられる上限」を書くものだという点です。「全国の事業所」と書いてあっても、実際に転勤が発生する頻度や、入社何年目で起きるかまでは書かれていません。逆に「本社のみ」と書いてあれば、会社は契約上、本社以外への異動を一方的には命じにくくなります。この欄を読むときは、上限として読むのが正しい読み方です。

2024年3月以前の求人票には載っていない

改正前に出された求人票や、改正前に交わした労働条件通知書には、この欄はありません。求人サイトに残っている古い求人票や、会社サイトの募集要項が数年前のまま更新されていない場合、転勤について何も書いていないのは「転勤がない」のではなく「書く義務がなかった頃のもの」です。求人票の作成日や、募集要項の更新日を見て、2024年4月以降のものかを先に確かめてください。求人票の各欄の読み方は 求人票の見方 にまとめてあります。

会社サイト32,838社を数えたら「転勤に触れる会社」は8.9%だった

ここからはうちのデータです。しょくばログには、gBizINFO(経済産業省)に公式サイトが登録されている会社を中心に、会社サイトの採用ページのテキストを32,838社分保存してあります。この本文に対して、転勤に関する語を機械的に数えました。数え方は「その語が採用ページのどこかに1回でも出てくるか」で、語の文脈までは見ていません(たとえば「転勤なし」と書いた会社と、「転勤がある方は…」と書いた会社の両方を「転勤に触れている」に数えます)。

まず目につくのは、転勤に触れる会社のうち「なし」と書く会社が「あり」と書く会社の1.6倍という点です。採用ページは会社が自分をよく見せる場所なので、転勤がないことは書く価値があり、転勤があることは積極的には書かない。この非対称があるので、「採用ページに転勤の話が出てこない」は「転勤がない」の根拠にはなりません。むしろ、転勤がある会社ほど採用ページでは触れず、求人票の「変更の範囲」欄で初めて分かる、という構造です。

もう1つは「変更の範囲」の語の少なさです。改正から2年以上たった時点で、採用ページにその語を載せている会社は100社に1社でした。改正の対象は求人票と労働条件通知書であって、会社サイトの採用ページに書く義務はないので、これは違法でも異常でもありません。ただ、会社サイトを見て転勤の有無を判断しようとしても、ほとんどの会社では情報が無いということは覚えておいてください。

会社が大きいほど転勤に触れ、「なし」と書く比率は下がる

同じデータを従業員規模(gBizINFO由来)で分けると、傾向がはっきり出ます。

1〜49人の会社では、転勤に触れる会社の半分以上が「転勤なし」と書いています。事業所が1か所しかない会社が多く、転勤という概念自体がないので、書くとすれば「なし」になるのは自然です。一方、300人以上になると転勤に触れる会社は13.2%に増え、その中身は「あり」が「なし」を上回ります。「転勤の話が出てこない小さな会社」と「転勤の話が出てこない大きな会社」では、沈黙の意味が違う、と読んでください。前者はたぶん転勤がなく、後者は求人票で確かめないと分かりません。

「変更の範囲」の語も、300人以上で2.3%、1〜49人で0.3%と、規模で7〜8倍の差があります。大きい会社ほど人事部門が改正に合わせて採用ページを更新している、という差だと思います。従業員数の調べ方そのものは 会社の従業員数を調べる方法 を参照してください。

業種で見ると、建設は「なし」、製造・医療福祉は「あり」が多い

業種(日本標準産業分類の大分類、業種が判定できた会社のみ)で見ると、転勤に触れる率と、その中身の傾向が違います。

建設業は転勤に触れる率がいちばん高く、しかも半分以上が「なし」です。地場の工務店・設備会社が「現場は変わるが転居を伴う転勤はない」と書いているケースが多い印象です。逆に製造業・卸売小売業・医療福祉は「あり」の比率が高めで、工場・店舗・施設が複数ある会社が拠点間の異動を前提にしていることが分かります。医療福祉は転勤に触れる率自体は3.6%と低いのですが、触れる会社の3社に1社は「あり」と書いており、複数施設を持つ法人の異動は見落としやすいところです。

求人票そのものには、もっと書かれていない

うちのデータベースには、会社サイトから収集した求人票(募集職種の個票)も2,628社・6,735件あります。この求人票の「勤務地」欄と職種名に「転勤」の語が含まれるものを数えると、7件でした。募集要項の個票レベルでは、転勤の有無は勤務地欄ではなく、別の項目や備考にしか書かれていない、あるいは書かれていないということです。「勤務地:東京本社」とだけ書いてある求人票を見て「転勤なし」と読むのは早計で、勤務地欄は「雇い入れ直後の就業場所」しか表していないと考えてください。改正後の求人票なら、その下の「変更の範囲」を見るのが正解です。

書いていない会社で転勤の有無を確かめる手順

改正後の求人票が手に入らない、会社サイトにも書いていない、という会社で転勤の有無を確かめるには、次の順で当たると効率がいいです。

1. 事業所がいくつあるかを数える

転勤は「別の事業所へ移ること」なので、事業所が1か所しかない会社には物理的に転勤がありません。会社サイトの会社概要・アクセスのページで、本社以外に支店・営業所・工場・店舗があるかを数えてください。国税庁の法人番号公表サイトに載るのは本店所在地だけで、支店は載りません。本店以外の拠点の調べ方は 会社の住所を調べる方法 にまとめてあります。事業所が複数あっても同じ市内に集まっていれば転居を伴う転勤は考えにくく、複数の都道府県に散っていれば転居を伴う転勤の可能性を前提に確認を進めます。

2. 「勤務地限定」「地域限定」の雇用区分があるかを見る

大きい会社では、転勤のある「総合職」と、転勤のない「地域限定正社員」「エリア社員」を分けていることがあります。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2017年10月に公表した「企業の転勤の実態に関する調査」(常用労働者300人以上の企業10,000社対象・有効回答1,852社)では、勤務地限定正社員の雇用区分がある企業は15.8%、正社員(総合職)のほとんどに転勤の可能性がある企業は33.7%でした。同じ調査で、勤務地限定正社員と転勤ありの正社員の年収差は「5〜10%未満」が27.4%、「10〜15%未満」が25.3%で、勤務地を固定する代わりに給与が下がる会社が多いことも分かります。うちの集計でも「勤務地限定」「地域限定」「エリア限定」の語がある会社は339社で、300人以上の会社に211社が集中しています。募集要項にこの区分があれば、どちらで応募するかを最初に決めてください。正社員・契約社員の区分の読み方は 求人の「正社員」「契約社員」の見分け方 にあります。

3. ハローワーク求人票で「変更の範囲」欄を確かめる

会社サイトに書いていなくても、その会社がハローワークに求人を出していれば、2024年4月以降の求人票には「変更の範囲」の欄があります。ハローワークインターネットサービスで会社名を検索し、求人票の「就業場所」の項目を開いてください。会社サイトの募集要項と求人票の内容が食い違うときは、法律上の明示義務がかかっている求人票のほうを基準にします。

4. 面接で「変更の範囲」を書面で出してもらう

ここまでで分からなければ、面接で聞くのがいちばん早く、しかも正当です。改正後は会社に明示義務があるので、「就業場所の変更の範囲を教えてください」という質問は、求職者として当然の確認です。口頭の回答で終わらせず、内定時の労働条件通知書に「変更の範囲」がどう書かれているかを必ず見てください。通知書の書き方が求人票と違う場合は、その場で理由を聞いておくべきです。会社の残業や有給の実態を外から調べる方法は 会社の残業時間・有給消化率を外から調べる方法 を参照してください。

「転勤なし」と書いてあっても確認したい3点

「転勤なし」の一言で安心する前に、3つだけ確かめてください。

よくある質問

「就業場所の変更の範囲」に「会社の定める事業所」とだけ書いてあるのは違法ではありませんか

違法ではありません。厚生労働省の案内では、変更の範囲は将来の配置転換の見込みを含めて明示するものとされていますが、具体的な地名を列挙することまでは求められていません。「会社の定める事業所」は範囲を限定しない書き方なので、転勤ありの中でもいちばん広い意味だと読んでください。範囲を狭めたい場合は、面接で「実際に異動が起きうる拠点」を聞くしかありません。

会社サイトの採用ページに転勤の記載がなければ、転勤はないと考えていいですか

いいえ。うちの集計では採用ページで転勤に触れる会社は8.9%しかなく、触れる会社の中でも「なし」と書く会社が「あり」と書く会社より多い、という偏りがあります。書かれていないのは「無い」ではなく「書いていない」です。事業所の数を数え、2024年4月以降の求人票の「変更の範囲」欄で確かめてください。

2024年4月より前に入社した人には「変更の範囲」の明示はないのですか

改正は2024年4月1日以降に労働契約を結ぶ場合と、有期契約を更新する場合に適用されます。それ以前に結んだ無期の契約について、会社が改めて「変更の範囲」を明示する義務はありません。ただ、既存の社員に対しても就業規則の転勤条項は有効なので、転勤の有無は就業規則の「配置転換」「転勤」の条文で確認することになります。

「転勤なし」と書いてある求人に応募して入社した後、転勤を命じられることはありますか

求人票と労働条件通知書の「変更の範囲」が「本社のみ」のように限定されていれば、会社はその範囲を超える異動を一方的には命じにくくなります。一方、求人票では「転勤なし」と書いてあっても、労働条件通知書で「会社の定める事業所」となっていれば、通知書のほうが契約の内容です。入社前に、求人票と通知書の「変更の範囲」が一致しているかを見比べてください。

転勤がない会社の割合は、全国でどのくらいですか

「転勤がない会社の割合」を全国規模で数えた公的統計は見当たりません。JILPTの2017年調査は300人以上の企業に限った調査で、正社員(総合職)のほとんどに転勤の可能性がある企業が33.7%、勤務地限定正社員の区分がある企業が15.8%という数字です。うちのデータは「採用ページに書いてあるか」を数えたもので、転勤の有無そのものではありません。1〜9人の会社では転勤に触れる会社の54.0%が「なし」と書いており、小さい会社ほど転勤がない傾向は読めますが、割合として断言できる数字は持っていません。

まとめ

出典:厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」(労働基準法施行規則の一部を改正する省令=令和5年3月30日厚生労働省令第39号、令和6年4月1日施行)/厚生労働省 大阪ハローワーク「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」(職業安定法施行規則の改正)/労働政策研究・研修機構(JILPT)「企業の転勤の実態に関する調査」(2017年10月25日公表、常用労働者300人以上の企業10,000社対象・有効回答1,852社)/gBizINFO(経済産業省)の従業員数/国税庁 法人番号公表サイト/しょくばログ保存の会社サイト採用ページ32,838社分および収集済み求人票6,735件の語の集計(2026年9月16日時点)。集計は語の有無で数えたもので、個々の会社の転勤の有無を保証するものではありません。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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