✍ 古家あきら | 2026-09-21 更新
飲食料品の消費税引き下げ、企業の見立ては「食品小売+1.58%・飲食店▲3.94%」 — 影響を受ける側の会社を法人データで数えると、酒店の76.8%・精肉店の76.0%が「2006年以前設立の有限会社」だった
先に結論です。帝国データバンクが2026年9月18日に公表した企業アンケート(有効回答1万560社)では、飲食料品の消費税率引き下げが日本経済の活性化に「つながる」と答えた企業は18.0%、「つながらない」が54.5%でした。自社の売り上げへの影響は76.9%が「変わらない」。ただし業種別に見ると、飲食料品小売は+1.58%の増収を見込む一方、飲食店は▲3.94%、酒場・ビヤホール等は▲7.57%の減収を見込んでいます。 同じ「食」の政策でも、家庭向けに売る側と、店で食べさせる側で、見立てが正反対に割れています。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、こういう調査を見たときに「では、その割れ目のどちら側に、どんな会社が何社いるのか」を数えたくなります。うちの手元にあるのは国税庁の法人番号公表データをもとにした約579万件(5,791,529件)の法人記録。業種の欄はないので、社名に業態を示す語を含む法人を側ごとに抜き出して、登記の閉鎖率と、会社の種類の内訳を見ました。結果を先に言うと、影響を強く受ける側の会社ほど「有限会社」の比率が高く、酒店は76.8%、精肉店は76.0%、鮮魚店は71.1%でした。有限会社は2006年以降は新しく作れない会社なので、これは「設立から20年以上たつ小さな会社が主役の業界」ということです。
一次資料で確認できること — 帝国データバンクの調査(2026年9月18日)
まず、調査の中身を一次資料で押さえます。
出典:https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260918-consumptiontax/ (株式会社帝国データバンク「飲食料品の消費税率引き下げに関する企業の意識調査」2026年9月18日公表)
調査の枝葉は次のとおりです(すべて帝国データバンクの記載より)。
- 調査期間:2026年8月18日〜8月31日(TDB景気動向調査2026年8月調査と同時実施)
- 調査対象:全国2万2,060社、有効回答1万560社(回答率47.9%)
- 前提:調査時点で示されていた政府の基本方針(帝国データバンクの記載では「2027年4月から2年間、飲食料品の税率を8%から1%へ引き下げ、その後8%へ戻し、給付付き税額控除へ移行する」)を前提にしたもの。実施には関連法案の成立が必要で、時期や制度の詳細は変わる可能性がある、と明記されています
- 日本経済の活性化につながるか:「つながる」18.0%、「つながらない」54.5%、「分からない」27.4%
- 自社の売り上げへの影響:「変わらない」76.9%、「増加」7.9%、「減少」3.1%、「分からない」12.0%
- 期待売上増減率(全産業):+0.16%(回答の分布に代表値を当てて試算した指標で、政策効果の予測値ではない、と注記あり)
業種別の期待売上増減率は、こう割れています。
- 飲食料品小売:+1.58%(40.9%が増収を見込む)。うち各種食料品小売+2.63%、料理品小売+1.35%
- 飲食料品・飼料製造:+1.14%(29.9%が増収を見込む)
- 飲食料品卸売:▲0.31%(26.0%が増収、18.9%が減収)。乾物・缶詰等+2.16%、酒類▲2.98%
- 飲食店:▲3.94%(46.9%が減収を予想)。食堂・料理店等▲3.53%、酒場・ビヤホール等▲7.57%
- 旅館・ホテル:▲0.74%
企業コメントとして「外食の税率が据え置かれるなら、内食の比重が高まり、外食業界には逆風となる」(飲食・宿泊)という声が載っています。減税そのものの是非ではなく、家庭向け食品が店内飲食より割安になることで、需要が外食から内食・中食へ動くことへの警戒です。
しょくばログの会社データで数える — 割れ目の両側に、どんな会社がいるか
ここからがうちの本題です。法人番号公表データには業種がありません(この制約は会社の業種を調べる方法に書いています)。そこで、社名に業態語を含む法人を「外食側」「食品小売側」「酒類流通側」に分けて数えました。比較の基準は、全法人の登記閉鎖率13.2%(5,791,529件のうち762,832件)と、全法人の有限会社比率28.9%・株式会社比率50.4%・合同会社比率7.8%です。
- 外食側(社名に「食堂」「レストラン」「居酒屋」「酒場」「ビヤホール/ビアホール」):2,438法人、閉鎖済み478件(19.6%)。会社の種類は有限会社54.8%・株式会社26.8%・合同会社4.2%。所在地の上位は東京都477、神奈川県160、北海道149
- 食品小売側(社名に「スーパー」「精肉」「青果」「鮮魚」「米穀」):11,359法人、閉鎖済み2,155件(19.0%)。有限会社53.3%・株式会社35.0%・合同会社1.5%。上位は東京都1,458、北海道686、神奈川県601
- 酒類流通側(社名に「酒販」「酒店」「酒類」):8,116法人、閉鎖済み1,711件(21.1%)。有限会社61.3%・株式会社18.5%・合同会社0.6%。上位は東京都1,281、神奈川県593、大阪府435
閉鎖率は三つの側とも19〜21%で、全法人の13.2%より高いものの、側どうしの差は小さい。つまり「登記が消えている割合」では、追い風側と逆風側の差は出ません。差が出たのは、会社の種類のほうでした。
語ごとに見ると、「有限会社率」に大きな開きがある
同じ側の中でも、語ごとに会社の種類はかなり違います。
- 酒店:5,830法人、有限会社76.8%、合同会社0.6%
- 精肉:1,159法人、有限会社76.0%、合同会社0.6%
- 鮮魚:1,100法人、有限会社71.1%、合同会社2.1%
- 居酒屋:107法人、有限会社67.3%、合同会社7.5%
- レストラン:1,023法人、有限会社56.9%、合同会社2.4%
- 食堂:1,225法人、有限会社54.0%、合同会社4.5%
- 米穀:1,749法人、有限会社53.9%、合同会社0.6%
- 青果:5,492法人、有限会社47.6%、合同会社1.0%
- スーパー:1,865法人、有限会社44.9%、合同会社4.3%
- 酒場:75法人、有限会社25.3%、合同会社18.7%
- 酒販:1,858法人、有限会社22.3%、合同会社0.5%
- 酒類:428法人、有限会社19.4%、合同会社0.5%
有限会社は、2006年5月の会社法施行以降は新しく設立できません(既存の会社は「特例有限会社」として存続できます)。だから現在も有限会社として登記されている会社は、少なくとも設立から20年以上たっていると読めます(有限会社という形の意味は有限会社に就職するのは不利なのかで整理しています)。逆に合同会社は2006年以降にしか存在しない形なので、合同会社率が高い語は新しい会社が多い語です。
この物差しで見ると、TDBの調査で減収見込みが最も大きかった「酒場・ビヤホール等(▲7.57%)」に対応する社名「酒場」は、有限会社25.3%・合同会社18.7%と、新しい会社が多いグループでした。一方、酒類卸(▲2.98%)と重なる「酒店」は有限会社76.8%で、20年以上続く小さな会社がほとんどです。同じ「酒」でも、減収を見込む側に、設立年代のまったく違う二つの集団がいることになります。
「2年後に戻す」設計が、古い小さな会社に効く理由
帝国データバンクは調査の「おわりに」で、政策実施にあたって三つの論点を挙げています。①外食から内食・中食への需要移動を含め業種ごとに異なる影響を考えること、②導入時と終了時に発生する価格表示・レジ・会計システムの変更について事業者が対応できる準備期間と支援を検討すること、③外食・宿泊業への影響や税率区分、財源、2年後の移行方針を具体的に説明すること、です。
うちのデータから足せるのは②の重さです。レジや値札、会計処理の切り替えは、税率が下がる時と、2年後に戻る時の2回発生します。その負担を受けるのは、社名に「酒店」「精肉」「鮮魚」を持つ法人の7割超を占める、2006年以前設立の有限会社——つまり店主が一人で切り替え作業を抱えるような規模の会社です。売り上げには追い風(食品小売+1.58%)でも、事務の手間は逆風になりうる。TDBが「支援策を設計する際には、企業規模や期間だけでなく、実際の業務負担を左右する事業特性を考慮することが重要」と書いているのは、この層のことだと読みました。
もう一つ。飲食店は個人事業の比率が高い業態で、法人データベースには載っていない店が多い。TSRの8月の飲食業倒産80件のうち最多の区分が「個人企業他」だったことは8月の飲食業倒産が30年で最多の80件に書きました。今回の「飲食店▲3.94%」もあくまで法人回答の平均で、個人経営の店の見立ては、この調査にも法人データにも映っていません。
この会社はどちら側か — 応募先・取引先を見るときの3つの確認
「うちの取引先は追い風か、逆風か」「これから応募する会社はどっちか」を見分けるとき、数字より先に確認したいことが三つあります。
1. 法人か個人事業かを確かめる。 法人なら法人番号があり、商号・所在地・登記閉鎖の有無を無料で確認できます。個人事業は法人データにそもそも載りません(見分け方は取引先が個人事業主か法人かを見分ける方法)。 2. 売り先が「家庭」か「店内」かを見る。 社名だけでは分かりません。同じ「〇〇食品」でも、スーパー向けの加工食品なら追い風側、業務用の卸なら卸売側(▲0.31%)です。公式サイトの事業内容と、あれば求人票の仕事内容で判断します。 3. 会社の種類と設立年代を見る。 有限会社なら2006年以前設立、合同会社なら2006年以降。古いから安全、新しいから危ないという話ではなく、「切り替え作業を何人で回す会社なのか」の想像に使います。会社の種類の違いは法人の種類一覧にまとめています。
よくある質問
飲食料品の消費税はいつから、何%になるのですか?
帝国データバンクの記載によれば、調査時点で政府が示していた基本方針は「2027年4月から2年間、飲食料品の税率を8%から1%へ引き下げ、その後8%へ戻し、給付付き税額控除へ移行する」というものです。ただし同じ記載に、実施には関連法案の成立が必要で、時期や制度の詳細は今後変更される可能性がある、とあります。この記事は制度の確定情報ではなく、企業の見立てを扱っています。
「飲食店▲3.94%」は実際に売り上げが3.94%減るという予測ですか?
違います。帝国データバンクが「期待売上増減率」と呼ぶこの数字は、回答企業が選んだ増減幅の選択肢(「3%以上5%未満」なら4%など)に代表値を当てて平均した指標で、政策効果の予測値ではない、と一次資料に明記されています。「回答企業の見立てを均すとマイナス側に寄っている」と読むのが正しい使い方です。
社名に「酒店」「精肉」が入っていない会社は、この集計に入っていないのですか?
入っていません。法人番号公表データには業種欄がないため、社名の語で拾える範囲だけを数えています。「株式会社〇〇商店」のような社名の食品小売や、地名だけの社名の居酒屋は漏れます。また、登記の閉鎖は倒産とは別で、解散・清算結了・合併も含みます。この集計は「業界の傾向を推し量る断面」であって、個別の会社の評価には使えません。
有限会社が多い業界は危ないのですか?
そうは言えません。有限会社が多いのは「2006年以前に設立され、いまも続いている会社が多い」ということで、むしろ業歴の長い会社の集まりです。この記事で有限会社率を使ったのは、税率変更に伴うレジ・値札・会計の切り替えを、少人数で2回こなす会社がどれだけいるかの目安としてです。
---
※本記事は2026年9月21日時点で公表されている情報にもとづく整理です。アンケートの数値はすべて株式会社帝国データバンクの公表資料(2026年9月18日)からの引用、法人件数・登記閉鎖・会社の種類の集計は国税庁の法人番号公表データにもとづく当サイトの集計(社名の語による抽出)です。個別の会社の経営状態を示すものではありません。