✍ 古家あきら | 2026-09-02 更新

コロナ破たん累計1万4,567件、「250社に1社」は分母を変えると入れ替わる — 東京だけ順位が動く理由

2026年9月1日、東京商工リサーチが「2026年8月の新型コロナ関連の経営破たんは109件」と公表しました。2020年2月の1号目からの累計は1万4,567件。同じ発表のなかで、破たん率は0.405%、全国の企業250社に1社とされ、都道府県別では東京都が0.692%で最も高いと書かれています。

先に結論を書きます。「250社に1社」も「東京が全国1位」も、分母の取り方で決まる数字です。 東京商工リサーチが使った分母は2016年の経済センサス、つまり10年前の企業数(358万9,333社)で、その半分は法人ではなく個人事業主です。

しょくばログという全国の会社データベースを運営しているので、同じ件数をいま登記が生きている会社442万2,900社で割り直してみました。結果、都道府県の順位は入れ替わりました。ただし大きく動いたのはほぼ東京だけで、福岡・宮城・京都は分母を変えても上位に残りました。この違いに意味があります。

まず事実:8月109件、累計1万4,567件

東京商工リサーチの公表内容は次のとおりです(出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト「新型コロナ破たん、8月は一転してことし最少」2026年9月1日)。

月109件は「減った」ですが、7月がことし最多だった直後の109件です。「円安」倒産の記事でも書いたとおり、月次の1つの数字で傾向を判断するのは無理があります。東京商工リサーチ自身も「当面、月間100件台で推移する」と見ています。

「250社に1社」の分母は、10年前で、半分が個人事業主

比率の話に入ります。分母の358万9,333社は2016年の経済センサスの数字です。ここには法人でない事業者が大量に含まれます。

平成28年経済センサス-活動調査の企業等数は385万6,457で、内訳は会社企業162万9,286(42.2%)、個人経営197万9,019(51.3%)、会社以外の法人24万8,152(6.4%)(出典:総務省統計局 平成28年経済センサス-活動調査)。過半数が個人経営です。

これは東京商工リサーチの誤りではありません。同社の倒産統計は個人企業も対象に含むので、分子と分母の範囲はそろっています。問題は、この比率をそのまま「会社の危険度」として読んでしまうことです。「250社に1社」の"社"は、あなたが取引や応募を検討している株式会社と同じ単位ではありません。

もうひとつ、分母が2016年だという点も効きます。この10年で法人の数は増えました。分母が増えれば率は下がります。率が動いたとき、それが分子(破たん)の変化なのか分母の更新なのかは、比率だけを見ていても分かりません。

登記データで割り直すと、東京の順位が10位まで落ちる

そこで、うちの法人データベース(国税庁の法人番号公表データを取り込んだもの)で分母を作り直しました。2026年9月時点で登記が閉鎖されていない「会社」=株式会社・有限会社・合同会社・合資会社・合名会社の合計は442万2,900社です。内訳は株式会社251万3,316社(56.8%)、有限会社142万6,057社(32.2%)、合同会社41万2,431社(9.3%)、合資会社5万8,916社(1.3%)、合名会社1万2,180社(0.3%)。

この分母で、東京商工リサーチが件数を公表している12都道府県+最少の鳥取県を割り直すと、こうなります(累計件数 ÷ 登記が生きている会社数)。

全国では0.329%、304社に1社でした。東京商工リサーチの「250社に1社」より低く出ます。

そして順位です。東京都は、公表ベースでは47都道府県で1位(0.692%)だったのに、登記ベースでは13都府県中10位まで落ちました。 一方で福岡・宮城・京都は、どちらの分母でも上位に残っています。件数最少の鳥取県38件も、率にすると0.278%で東京とほぼ変わりません。

東京だけが動く理由 — 登記が106万社、実体は40万社台

なぜ東京だけこれほど動くのか。東京の登記が生きている会社は106万5,926社で、全国の24.1%を占めます。ところが、東京商工リサーチが公表した東京都の件数2,895件と率0.692%から分母を逆算すると、約41万8,000社にしかなりません。2.5倍以上のひらきがあります。

内訳の差(センサス側は個人経営を含み、こちらは法人だけ)を考えても、この差は大きすぎます。東京には、登記だけが残っている会社、本社登記だけ置いて実務は他県という会社、活動を止めたまま解散登記をしていない会社が、他県より濃く積み上がっています。 うちの数字では有限会社が全国で142万社、会社全体の32.2%を占めますが、有限会社は2006年の会社法施行以降は新しく作れません。つまりこの142万社はすべて20年以上前に設立された会社で、そのうちどれだけが今日も動いているかは、登記からは分かりません。

ここは統計の限界というより、登記という記録の性質です。会社は生まれるときは必ず登記しますが、やめるときに登記するとはかぎりません。この「終わり方が記録に残らない」問題は倒産統計に映らない会社の終わり方でも扱いました。

この数字でできること、できないこと

できないこと。 「東京の会社は危ない」「宮城の会社は危ない」という判断には使えません。0.5%と0.2%の差は、200社に1社と500社に1社の差です。目の前の1社がどちらに入るかは、この比率からは一切分かりません。

できること。 比率が食い違ったときに、その原因を分子・分母のどちらなのか切り分けられます。同じ「コロナ破たん」でも、調査会社によって件数の定義が違うことは人手不足倒産は63件?30件?で書いたとおりです。今回はそれに加えて、分母のほうでも同じくらい数字が動くことが確認できました。統計を読むときは、分子の定義と分母の出所、両方を見てください。

そしていちばん実務的なこと。 コロナ破たんの多くは、コロナ融資(実質無利子・無担保のいわゆるゼロゼロ融資)の返済に行き詰まった結果です。東京商工リサーチも「コロナ禍で抱えた過剰債務に苦しむ企業は多い」としています。過剰債務は外から見えません。 見えるのは、その結果として出てくる兆候のほうです。

応募前・取引前に見る順番

比率を眺めるより、こちらのほうが実益があります。

1. その会社が今も動いているかを確認する — 登記の生存、公式サイトの更新、電話の応答。手順は会社の実在・倒産を確認する方法にまとめています。 2. 登記だけの会社でないかを確認する — 住所・電話・求人・代表者の兼任状況。5つのサインは営業実態のない「幽霊会社」を見分ける5つのサインにあります。 3. 求人の出し方を見る — 同じ職種を何度も出し直していないか、給与レンジが異常に広くないか。求人票の見方。 4. 取引なら与信をかける — 応募と違い、取引は金額が動きます。取引先の信用を調べる方法。

この4つは全部無料でできます。比率を読む時間を、この4つに使うほうが確実です。

よくある質問

コロナ破たんは、まだ増えているのですか?

累計は増え続けています。ただし月次は2026年に入って119件〜160件台の範囲で上下しており、東京商工リサーチは「一進一退を続けながら当面、月間100件台で推移する」としています。8月の109件は減少ですが、7月がことし最多だった直後の数字です。

「新型コロナ破たん」は、コロナが原因で潰れた会社の数ですか?

コロナ禍で抱えた債務や売上減が破たんの要因と判定されたもの、という意味です。2026年の破たんは、コロナそのものより、コロナ融資の返済とその後の物価高・人件費上昇が重なった結果として起きています。東京商工リサーチも今回の記事でその構図を示しています。

自分の会社がある県の率が高いと、取引先も危ないですか?

いいえ。この記事の数字が示しているのは逆のことです。同じ件数でも分母を変えれば率は変わり、東京のように順位が10位ぶん動くこともあります。 地域の率は、その地域の1社を評価する材料にはなりません。

東京の破たん率が高く出たり低く出たりするのは、統計が間違っているからですか?

いいえ。分母の定義が違うだけです。東京商工リサーチの分母は2016年の経済センサスによる企業数(個人経営を含む)、こちらの分母は2026年時点で登記が生きている会社です。どちらも正しい数え方で、測っているものが違います。

登記が生きている会社なら、営業していると考えていいですか?

いえません。会社は解散しても解散登記をしないまま残ることがあり、うちのデータでも有限会社142万6,057社はすべて2006年以前に設立された会社です。登記の生存は「まだ記録が閉じられていない」という意味で、営業の証明ではありません。

まとめ

2026年9月1日公表の東京商工リサーチのデータは、8月の新型コロナ関連破たん109件(ことし最少)、累計1万4,567件、破たん率0.405%=250社に1社、都道府県別では東京都が0.692%で最高、最低は岐阜県0.165%、という内容でした。

同じ件数を、うちの法人データベースで作った分母「2026年9月時点で登記が生きている会社442万2,900社」で割り直すと、全国0.329%=304社に1社。都道府県別では宮城県0.558%、福岡県0.524%、京都府0.451%が上位で、東京都は0.272%で13都府県中10位まで下がりました。

読み取れることは2つです。ひとつ、福岡・宮城・京都は分母を変えても上位に残る。ここは本当に比率が高い。ふたつ、東京の1位は分母の効果が大きい。 東京の登記済み会社106万5,926社に対し、公表値から逆算した分母は約41万8,000社で、2.5倍以上のひらきがありました。東京には、登記だけが残っている会社が他県より濃く積み上がっています。

比率は地域の話であって、1社の話ではありません。応募先や取引先が気になるなら、率ではなく、その会社の登記・住所・電話・求人を1つずつ確認してください。しょくばログは、全国の会社を1社1ページにまとめ、登記情報・所在地・業種・求人などを無料で確認できます。まずは会社名で検索してみてください。

※本記事は2026年9月2日時点で公表されている情報にもとづく整理です。新型コロナ関連の破たん件数・構成比・破たん率は東京商工リサーチの公表値、企業等数の内訳は総務省統計局「平成28年経済センサス-活動調査」の公表値です。会社数および都道府県別の集計は国税庁の法人番号公表データにもとづく当サイトの集計で、登記記録が閉鎖されていない会社を数えた参考値です(営業実態の有無は含みません)。逆算した分母は公表値から計算した概数です。特定の企業・地域の経営状態を評価または断定するものではありません。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

← お役立ち記事一覧へ