✍ 古家あきら | 2026-09-12 更新
テレビ番組制作会社の倒産が過去最多タイ — 社名に「テレビ」「映像」を持つ法人1,578件を数えたら、閉じ方の36.6%が「登記官による閉鎖」だった
東京商工リサーチが2026年9月11日に公表した調査によると、2026年1-8月のテレビ番組制作会社の倒産は14件で、同期間としては2007年以降の20年間で最多だった2010年に並びました。このペースが続くと、年間では2009年と2012年の21件を抜いて過去最多を更新する可能性が高い、というのが同社の見立てです。
先に結論を書きます。倒産14件は「負債1,000万円以上で法的整理に至った会社」の数であって、この業界で止まった会社の全部ではありません。 しょくばログの法人データで社名に「テレビ」または「映像」を含む法人を数えると1,578件あり、そのうち273件(17.3%)はすでに登記が閉鎖されていました。閉じ方の内訳を見ると、法務局が「みなし解散」として整理した「登記官による閉鎖」が100件(36.6%)で、全国平均の27.5%を9ポイント上回ります。倒産として数えられる派手な終わり方の下に、誰も手続きをしないまま止まった会社の層が厚い業界です。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「制作会社に転職したいが、会社が続くのか外から分かるのか」「発注先の制作会社の規模が分からない」という相談が来ます。今回の発表は、その答えを具体的に書く材料になるので、順に並べます。
発表された事実(出典つき)
東京商工リサーチの調査の要点です。集計対象は、日本標準産業分類の「テレビジョン番組制作業」に該当する会社で、負債1,000万円以上の倒産、期間は2026年1-8月です。
- 倒産は14件。同期間では2010年と並ぶ最多。年間の最多記録は2009年・2012年の21件
- 原因は「販売不振」が12件(85.7%)。ほかは「事業上の失敗」と「偶発的原因」が各1件
- 負債額は1千万〜5千万円未満が10件(71.4%)、5千万〜1億円未満が3件、1億〜5億円未満が1件。負債1億円未満が約9割
- 従業員数は「5人未満」が12件で大多数
- 地域は東京都が10件。埼玉県・大阪府・福岡県・宮崎県が各1件
- 背景として、電通「2025年 日本の広告費」を引き、テレビメディア広告費の構成比が前年から1.1ポイント減の21.8%にとどまる一方、インターネット広告が50.2%と過半を超えたこと、テレビ局の番組予算が横ばい・削減傾向のなかで、コスト上昇分の価格転嫁が難しい現実を挙げています
出典:東京商工リサーチ「『テレビ番組制作会社』の倒産 過去最多タイ コスト上昇と番組制作の予算削減で苦境」(2026年9月11日)
「発注元の予算が減るのに、人件費と機材費は上がる。それを請求額に乗せられない」という構図は、価格転嫁できない業種で書いた条件がそのまま当てはまります。出版業で先週書いた「売上横ばいで利益だけ減る」型と、発注元が寡占されているという点でも似ています(出版業の倒産急増)。
「倒産14件」と「閉鎖273件」は別の数字
混同しやすいので分けておきます。東京商工リサーチの「倒産」は、負債1,000万円以上で法的整理・私的整理に至った件数です。一方、しょくばログの元データである国税庁の法人番号公表情報に載っているのは「登記が閉鎖されたかどうか」で、倒産とは限りません。自分で清算を終えた会社も、合併で消えた会社も、休眠のまま法務局に整理された会社も、全部「閉鎖」に入ります。この違いは倒産統計に映らない会社の終わりで詳しく書きました。
もう1つ、数え方の限界を先に書きます。以下は社名に「テレビ」または「映像」という文字列を含むかで抜き出した結果です。したがって、
- 社名にこの2語を持たない制作会社(プロダクション名や横文字の社名)は拾えません
- 逆に、テレビ局本体(株式会社TBSテレビ、日本テレビ放送網株式会社など)、ケーブルテレビ局、テレビ販売店(「〇〇テレビ商会」)、業界団体、共同受信施設の組合まで混ざります
つまり「テレビ番組制作業」そのものではなく、「社名にテレビ・映像を掲げた法人の集合」です。それでも、この業界の外側にいる人が社名から会社を探すとき、実際に目にするのはこの集合なので、そのまま数えます。
ちなみに「番組」で引くと18件しか出ず、その大半は「一番組」「八番組」のような地名・屋号由来の法人でした。社名の文字列で業種を推し量ることの限界がよく分かる例です。
社名に「テレビ」「映像」を持つ法人は1,578件、17.3%が閉鎖済み
5,791,529件の法人記録から抜き出した結果です。
- 社名に「テレビ」または「映像」を含む法人:1,578件(「テレビ」864件、「映像」721件、両方を含むもの7件)
- うち登記閉鎖済み:273件(17.3%)。全法人の閉鎖率は13.2%(762,832件÷5,791,529件)なので、4ポイント高い
- 稼働中(閉鎖されていない)は1,305件
法人種別ごとに見ます。
- 株式会社:869件のうち閉鎖154件、17.7%。全国の株式会社は13.9%
- 有限会社:400件のうち閉鎖67件、16.8%。全国の有限会社は14.7%
- その他の設立登記法人(一般社団法人・NPO法人など):187件のうち閉鎖42件、22.5%。全国は10.7%
- 合同会社:93件のうち閉鎖9件(9.7%)
出版業を数えたときは株式会社だけが突出し、有限会社は全国平均より低かったのですが、テレビ・映像では有限会社も全国平均を上回りました。有限会社は2006年以降新設できないので、いま残っている333件の有限会社は最低でも20年続いた会社です。その老舗の層でも閉鎖率が平均を超えているのが、この業界の特徴です。老舗と新興を社名から見分ける考え方は老舗と新興の見分け方にまとめてあります。
閉じ方の内訳:「登記官による閉鎖」が36.6%
閉鎖273件の理由を、全国と並べます。
- 清算の結了等:155件(56.8%)/全国64.5%
- 登記官による閉鎖:100件(36.6%)/全国27.5%
- 合併による解散等:17件(6.2%)/全国7.8%
- その他:1件
「登記官による閉鎖」は、12年以上登記に変更のない株式会社などを法務局が「みなし解散」として整理する仕組みです。要するに、実体が止まってから長期間、誰も清算の手続きをしなかった会社です。この割合が全国より9ポイント高い。
倒産統計に出るのは、債権者がいて、負債が1,000万円以上あって、裁判所や弁護士が関わった会社です。制作会社は機材と人だけで始められ、負債を大きくしないまま仕事が途切れて止まることが多い。そういう終わり方は倒産にも清算にも数えられず、10年以上たってから法務局の整理でようやく登記が閉じます。「登記官による閉鎖」の厚さは、その静かな終わり方の多さを映しています。
この仕組みには、もう1つ知っておくべき癖があります。みなし解散の整理は、法務局が年に一度まとめて処理するため、閉鎖日が特定の時期に集中します。2026年に閉鎖された33件のうち28件は1月に登記が閉じられ、その28件はすべて「登記官による閉鎖」でした。2月以降の5件は清算結了が4件、合併が1件です。つまり、2026年1月に「テレビ・映像」の社名で一斉に登記が閉じたのは、2026年に何かが起きたからではなく、何年も前に止まっていた会社の帳簿上の整理が、この月に行われたというだけのことです。閉鎖日を「その会社がやめた日」と読むと、時期を大きく誤ります。
東京都が35.5%、倒産の71%も東京
所在地の分布です。
- 東京都:560件(35.5%)、うち閉鎖103件。全法人に占める東京都の割合は23.5%なので、12ポイント高い集中度
- 神奈川県:92件、大阪府:81件、埼玉県:72件、愛知県:64件、北海道:59件、千葉県:45件、福岡県:41件
東京都内は港区114件、渋谷区59件、新宿区49件、中央区38件、世田谷区34件、千代田区31件の順で、テレビ局の所在地に張りついています。東京商工リサーチの倒産14件のうち10件が東京都というのも、この分布から見れば自然な比率です。
「従業員5人未満が12件」は、外からは確かめにくい
ここが、応募者や発注側にとっていちばん実務的な話です。倒産14件のうち12件が従業員5人未満でした。では、いま稼働中の制作会社の従業員数は、外から分かるのでしょうか。
しょくばログは国のgBizINFOと法人番号で突き合わせています。社名に「テレビ」「映像」を持つ稼働中の1,305件のうち、gBizINFOに従業員数が載っているのは93件(7.1%)だけです。全法人では2.5%(147,672件÷5,791,529件)なので、この業界は比較的多いほうですが、それでも13社に1社です。
しかも、載っている93件の内訳は、50〜299人が53件、10〜49人が23件、300人以上が9件で、5人未満は5件しかありません。従業員数を公表しているのは、法律上の公表義務がある規模の会社や、補助金・認定を受けた会社に偏るからです。倒産した会社の大多数を占める「5人未満」の層は、まさに従業員数が外から見えない層と重なります。「小さい会社は危ない」と一般化できるかは社員数が少ない会社は危ないのかで書いたとおり単純ではありませんが、少なくとも「規模が確かめられない」こと自体を前提に動く必要があります。
制作会社を外から見るときの4つの手順
上の数字を踏まえた、現実的な確認の順番です。
1. 社名でなく法人番号で特定する。テレビ局本体と、その名を冠した子会社、無関係の同名法人が混在する業界です。しょくばログの会社検索で社名を引き、所在地で選んで13桁の法人番号を控えます 2. 登記の状態と閉鎖日を見る。閉鎖済みなら、閉鎖理由が「登記官による閉鎖」か「清算結了」かも見ます。前者なら、実際に止まった時期はもっと前です 3. 従業員数がgBizINFOに無ければ「無い」と受け止める。求人票の「社員数」は自己申告なので、面接で「正社員は何人か、業務委託は何人か」を分けて聞きます。事業内容の調べ方で書いた手順が使えます 4. 発注元の集中度を聞く。売上の何割が特定のテレビ局1社か。東京商工リサーチの分析にある「予算削減と価格転嫁の難しさ」は、発注元が1〜2社に集中している会社ほど直撃します
よくある質問
「テレビ」と社名にあれば番組制作会社ですか?
限りません。社名に「テレビ」を持つ864件には、テレビ局本体、ケーブルテレビ局、テレビ販売・修理店、共同受信施設の組合、業界団体が混ざっています。逆に、番組制作会社の多くは社名に「テレビ」を使いません。社名の文字列で業種を決めず、法人番号で1社ずつ確かめてください。
倒産14件と閉鎖273件、どちらが「実態」ですか?
どちらも一面です。倒産は負債1,000万円以上で法的整理になった会社の数、閉鎖は登記が閉じた会社の累計で、期間も定義も違います。倒産統計は「派手な終わり方」の速報値、登記の閉鎖は「静かな終わり方も含めた全部」の遅行値、と分けて読むのが実務的です。
2026年1月に閉鎖が集中しているのは、業界が急に悪化したからですか?
違います。2026年に閉鎖された33件のうち1月の28件はすべて「登記官による閉鎖」で、法務局が年に一度まとめて行うみなし解散の整理が1月に処理されたものです。実際に会社が止まったのは、その何年も前です。閉鎖日を「やめた日」と読まないでください。
制作会社の従業員数はどこで確かめられますか?
国のgBizINFOに載っていれば法人番号で引けますが、社名に「テレビ」「映像」を持つ稼働中1,305件のうち載っているのは93件です。載っていない会社が普通なので、求人票の社員数を鵜呑みにせず、面接で正社員と業務委託の人数を分けて聞くのが現実的です。
まとめ
- 東京商工リサーチの発表では、2026年1-8月のテレビ番組制作会社の倒産は14件で、同期間の過去最多に並んだ。12件が販売不振、12件が従業員5人未満、10件が東京都
- 社名に「テレビ」「映像」を持つ法人は1,578件、閉鎖率17.3%(全国13.2%)。閉じ方の36.6%が「登記官による閉鎖」で全国より9ポイント高く、静かに止まった会社の層が厚い
- 2026年1月に28件の閉鎖が集中しているのは、みなし解散の一括整理によるもので、業界の急変ではない
- 稼働中1,305件のうち従業員数が外から見えるのは93件(7.1%)。倒産の大多数を占める5人未満の層は、外から規模を確かめられない層と重なる
しょくばログでは、法人番号・所在地・登記の状態・閉鎖理由を1社ごとに無料で確認できます。求人票や名刺にある社名から、会社検索で確かめてみてください。