✍ 古家あきら | 2026-09-14 更新

獣医師1人・年商8,000万円の動物病院を上場企業が買収 — 犬猫生活の開示から、全国1万3,046か所の動物病院の「中身」と、病院名で法人が見つからない理由を数えた

先に結論です。2026年9月14日、ペットフードの企画・製造・販売を行う犬猫生活株式会社(東証グロース)が、茨城県守谷市の「守谷フォレスト動物病院」を運営する株式会社どうぶつのもりの全株式(10株)を取得して子会社化すると開示しました。 株式譲渡の実行は9月30日予定。取得価額は相手方の要望で非開示ですが、犬猫生活の直前期末純資産の15%を下回る水準とされています。

出典:株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(犬猫生活株式会社・2026年9月14日・適時開示) 出典:犬猫生活、動物病院運営の「どうぶつのもり」を子会社化(M&A Online・2026年9月14日)

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、動物病院に関する問い合わせは「求人票に書いてある会社名で検索しても出てこない」というものが目立ちます。今回の開示は、その理由をそのまま体現している案件でした。病院の名前は「守谷フォレスト動物病院」、法人の名前は「株式会社どうぶつのもり」です。この記事では、開示に書かれた事実と、農林水産省の届出統計、うちのデータベースの実数を突き合わせて、動物病院という業態の「中身」を数えます。

開示に書かれていること — 獣医師1人で年商8,000万円超

犬猫生活の開示文書に書かれた、株式会社どうぶつのもりの姿は次のとおりです。

※2026年5月期の数字は開示文書に「進行期8か月の累計で、減価償却費・賞与引当金・未払法人税等が未計上」と注記されています。8か月で営業利益が前年通期を上回っているのは、この未計上分の影響も含む数字です。

売却の理由も書かれています。現経営者は「経営と臨床を分離し、診療に専念できる体制」を目的に事業承継を希望し、譲渡後も院長として勤務を続け、従業員も継続雇用予定とされています。買い手の犬猫生活は2018年5月設立、2026年4月23日に東証グロースへ上場したばかりの会社で、2026年6月に公表した中期経営計画で動物病院事業の全国展開を掲げています。今回が「既に取得済みの動物病院に続く2拠点目」です。

出典:犬猫生活(556A)新規上場情報(日本経済新聞)

全国の動物病院1万7,200か所のうち、小動物は1万3,046か所 — 6割が「獣医師1人」

動物病院は獣医療法に基づいて都道府県へ開設を届け出るため、農林水産省が毎年12月31日時点の施設数を公表しています。最新は令和7年(2025年)12月31日現在で、2026年3月6日に公表されました。

出典:飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)(農林水産省・令和8年3月6日公表)

つまり「獣医師1人・法人開設」の守谷フォレスト動物病院は、全国の動物病院の最も分厚い層にあたります。開設者が個人と法人でほぼ半々というのも意外に思われるかもしれませんが、医療法人のような専用の法人格が動物病院には無いため、法人化する場合は株式会社・有限会社・合同会社という「普通の会社」になります。

しょくばログで数えると、名前で分かる動物病院の会社は2,280社

ここからがうちのデータです。国税庁の法人番号公表サイト由来の全579万法人から、名前に「動物病院」「どうぶつ病院」「ペットクリニック」「動物クリニック」「アニマルクリニック」「アニマルホスピタル」「動物医療」「動物診療」「獣医」(獣医師会を除く)などを含む会社(株式会社・有限会社・合同会社・合資会社)を数えました。

有限会社が半分というのは、全会社の1.5倍です。有限会社は2006年の会社法施行以降は新設できないため、有限会社の動物病院は少なくとも20年以上前に法人化した病院だと分かります。地域に根付いた1〜2人の病院が、平成の早い時期に法人化してそのまま続いている——数字はそう読めます。法人種別の見分け方は会社の種類一覧と有限会社に就職するのは不利なのかにまとめています。

インボイス登録率が全会社の1.6倍という点も、動物病院の事業規模を示しています。飼い主相手の商売でも年商1,000万円を超える課税事業者がほとんどで、ペット保険会社や卸との取引で登録番号が求められるからだと考えられます。

法人開設6,188か所に対して、名前で拾えるのは4割弱

農水省の「法人が開設した小動物施設」6,188か所に対し、うちで名前から拾えた活動中の会社は2,280社。施設数と法人数は1対1ではない(1法人が複数の病院を持つこともある)ので厳密な比較はできませんが、単純に割れば36.8%です。残りの6割超は、法人名に「動物病院」も「クリニック」も入っていない会社が運営していると考えるのが自然です。

今回の株式会社どうぶつのもりがまさにそれで、法人番号2050001050070の会社ページは名前検索では「動物病院」に引っかかりません。実際に守谷市で「動物」「ペット」「アニマル」を含む会社を探すと、出てくるのは有限会社伊藤動物病院の1社だけでした。守谷フォレスト動物病院は、病院名で探す限り存在しないことになります。

病院名と法人名が違うときの調べ方は4つあります。

1. 請求書・領収書のインボイス登録番号:Tの後ろ13桁が法人番号です。個人事業主か法人かの見分け方で手順を書いています 2. 求人票の「事業所名」と「会社名」を分けて読む:ハローワークや求人サイトでは、雇用主の欄に法人名、勤務地の欄に病院名が入ります 3. 病院サイトの「会社概要」「運営法人」:フッターや採用ページに法人名が書かれていることが多いです 4. 国税庁の法人番号公表サイトで所在地から検索:病院の住所で検索すると、その住所に本店を置く法人が出ます。会社の設立年を調べる方法で紹介している変更履歴も同じサイトで見られます

応募者・取引先が今回の案件から読み取れること

個社の評価ではなく、一般化した学びとして3つ挙げます。

1つ目:株式譲渡では法人番号も雇用契約も変わらない。 今回は株式の100%が犬猫生活に移るだけで、株式会社どうぶつのもりという法人は残ります。従業員の雇用主は開示のとおり同じ法人のままです。変わるのは株主と、その後の役員構成です。合併や事業譲渡との違いは合併・買収されたら法人番号はどうなるかに書いています。

2つ目:「経営と臨床の分離」は、獣医師1人の病院に共通する出口の一つ。 獣医師1人の施設が全国の61.8%を占める以上、院長が診療・経理・採用・設備投資をすべて抱える構造は珍しくありません。上場企業がバックオフィスを引き受け、院長は診療に専念するという形は、承継の選択肢として今後も増えると見ています。応募者の側から見ると、親会社が上場企業なら有価証券報告書や適時開示で親会社側の数字が読めるようになる、という変化があります。

3つ目:小さな法人ほど、外から分かる情報が少ない。 従業員数が外から分かる動物病院の会社は2,280社中190社(8.3%)しかありません。資本金50万円・株主1人という会社は、開示があって初めて売上や利益が分かります。今回のように上場企業の開示に載ることは、承継先の病院にとって「初めて数字が公になる瞬間」でもあります。

よくある質問

動物病院は「医療法人」ではないのですか?

違います。医療法人は医療法に基づく人の医療機関のための法人格で、動物病院には使えません。動物病院を法人で開設する場合は株式会社・有限会社・合同会社などの一般の会社形態になります。農水省の統計でも開設者は「個人」「法人」「国・自治体」という分け方で、法人の中身は普通の会社です。

求人票の会社名で検索しても病院が出てこないのはなぜですか?

病院名(屋号)と法人名が違うからです。今回の「守谷フォレスト動物病院」と「株式会社どうぶつのもり」のように、法人名に病院を示す語が入っていないケースは、農水省の法人開設数とうちの名前ベースの件数を比べる限り6割を超えると推定されます。インボイス番号か住所から法人番号を引くのが確実です。

動物病院の会社はよく潰れますか?

名前で拾える2,533社の登記閉鎖率は10.0%で、全会社の13.6%より低い水準です。閉鎖事由の86%は「清算の結了等」で、自主的な廃業や解散が中心です。ただし個人開設の病院(全国6,392か所)は法人登記が無いため、この数字には含まれていません。

買収された病院で働いている人の雇用はどうなりますか?

株式譲渡の場合、雇用契約の相手である法人は変わらないため、契約自体は自動的には変わりません。今回の開示でも従業員は継続雇用予定、院長も勤務継続と書かれています。変わる可能性があるのは、親会社の制度に合わせた就業規則や評価制度で、それは譲渡後に説明があるべき事項です。

まとめ

犬猫生活による株式会社どうぶつのもりの買収は、金額でいえば上場企業の純資産の15%未満の小さな案件です。ただ、獣医師1人・診察室2室・年商8,000万円超・個人開業から7年半で法人化という病院の姿は、全国1万3,046か所の小動物診療施設の最も分厚い層そのものです。そして法人名に「動物病院」が入らないため、名前検索では見つからない——これも6割超の動物病院法人に共通する性質です。しょくばログでは、病院名で見つからない会社を法人番号と住所から引けるように、個人事業主と法人の見分け方や会社の種類一覧とあわせて、この記事の数字を更新していきます。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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